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1960年前後のベストの着こなし
最近、スリーピーススーツやオッドベストを使ったコーディネートが流行っています。
「オッドベスト(odd vest)」とは、スーツとは関係なく単体で作られたベストのことで、スリーピーススーツとして作られたベストは「スーツベスト(suit vest)」と言います。
このベストですが、ジレ(gilet)、ウエストコート(waistcoat)、パンチョット(Panciotto)など、国によって呼び方は異なります。
参考|ベスト・ジレ・チョッキの違いは?ベストの種類とチョッキの由来
今でこそ、日本ではベストという呼び方が定着しましたが(最近はジレ呼びが増えている)、以前はチョッキ※と呼ばれていた時期がありました。現在30代の人は、子供の頃にチョッキという呼び方を聞いた最後の世代かもしれません。
※下着と認識されていたワイシャツに直に着た”直着”の他に、ポルトガル語の「ジャケッタ(jaqueta)」が語源だとする説がある。
そして過去の日本にも、今のようにベストを使ったコーディネートが流行った時期がありました。それは、現在とスーツスタイルの傾向が似ていると言われる1960年前後です。
では、当時のベストがどのように認識され、どのように着用されていたのか、1958年3月1日発刊の「男の流行」から、デザイナー中野裕氏の執筆「変わりチョッキの魅力 FANCY VEST FASHION」を引用して、1950年代のトレンドを読み解いてみましょう。
※中島秀雄氏の著作者人格権を尊重し引用していますが、現代でも読みやすくするために最小限の改編をしています。
ベストから”変わりチョッキ”へ
元来ベストという存在は、第2次大戦以前ではいわゆるスリーピースといって、スーツと同じ生地で作られたセットが常識だったが、戦後このスタイルが崩れ、特に若い人たちの間では背広にベスト無し上下と、妙な相場が決まってしまっていた。
ところが、その後ベストスタイルの復活が叫ばれるに至るや、従来のスリーピースのベストに取って代わったのが、”変わりチョッキ”である。
それも当初はベスト自体が持つドレッシーな感覚を和らげるために、プルオーバーのポンチェロ型※が人気を博した。タータンチェックなどを用いた多彩な”変わりチョッキ”がそれである。
※袖がないプルオーバーのこと。今は使われないベストの昔の呼び方。
ところが、最近の傾向としては普通のベストをスーツとは違った生地で作ってこれを配する、つまりここに掲げた写真のようなオーソドックスなベストが流行となっている。
これは元をただせば、遠い昔ざっと1930年代の英国スタイル、つまりスリーピースのベスト以前のトップモードとして時のダンディが好んで用いたスタイルで、近代的な感覚を加えた復活がこのファンシーベスト※の流行なのである。
※ファンシーベストにデザインの決まりはないが、中でもカジュアルな色柄や生地で作られたデザイン性を持つ。
無論トップモードの一方の旗頭、アイビーリーグでもいち早くこれに目をつけ、アイビー独特のチェックやストライプを利用したファンシーベストが発表されている。
もともと若い人たちには、この”変わりチョッキ”はなかなか手が出せない存在だったが、それがポンチェロによって糸口が開かれ、現在ではもっぱらポンチェロはメンズファッションにおいて不可欠な要素になっている。そこでもう一歩進んで、ハイクラス的効果を狙ってファンシーベストが生まれるに至った。
従ってこのベストは原型そのものに特に変わったデザインはないが、生地や色柄、更にはディティール(細部)に凝った味を出すのがいわゆるファンシーベストの所以でもある。
各ベストについての特徴
1.4つボタンのダブルベスト
生地はミックス調のウーステッド(梳毛:スーツに使う短毛のウール生地)で、ポケットにフラップをつけたのがアクセント。
2.ウーステッドベスト
ボタンを2つずつ合わせて間隔を取ったのがしゃれている。また、左脇にやや長めのスランテッド(斜め切り)ポケットを切り、これをジッパー留めとしたのがデザインのポイントになっている。
3.シェパードチェックベスト
ややボールドなシェパードチェック※をマテリアルとした多彩なベスト。ポケットのプリムとボタンをワインカラーの共布でアクセントとした若向きの”変わりチョッキ”。
※二色のブロックチェックで交差していない部分に斜め線が入ったチェック柄のこと。
4.細かいチェックのアイビー調”変わりチョッキ”
チャコール調のスーツに合わせると非常にシックな味が出る。ポケットはオーソドックスに4つ切ってあるが、若い人には両脇2つにしても良い。
5.グレーのダブルベスト
サイドタップがついてウェストをアジャストできるようになっている。これはドレッシーな黒のスーツに合わせてフォーマルにも使える。
6.オーソドックスなベスト
ダイアゴナルの柄を活かしたオーソドックスなベスト
デザイン:中島秀雄
今後のベスト(ジレ)のトレンドは
現在は、クラシックな英国調ありき、つまりスリーピーススーツが流行っているからこそベストに注目が集まり、オッドベストとしても着用されている流れがあります。
それに対し、1960年前後は、スリーピースの流れは過去のものとして扱われ、スーツベストの代わりにオッドベスト(変わりチョッキ)を用いたスリーピースのコーディネートを楽しむ流れがあります。
どちらにしても、ベスト(ジレ)の着こなしにスタイリッシュなセンスを求めていることは共通しているようです。
1960年前後のファッションの流れを鑑みるに、今後はよりデザイン性の高いオッドベスト(ファンシーベスト)が出てくることが考えられます。
スラックスにベスト(ジレ)を合わせたジレパンスタイルも、よりファンシーなベスト使いに向かっていくのでしょう。とくに英国調のトレンドが強く出るウィンドウペンやグレンチェックでの2色使い柄は要チェックです。