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May.16

ワイシャツのトレンド変化とは?現代と1950年代のシャツの違い

Written by伊藤進一郎

この記事を読むのに必要な時間は約 12 分です。

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ワイシャツのトレンドは予測できる?

ワイシャツが日本独特の和製英語であり、その語源が「ホワイトシャツ」から来ていることは有名なお話ですね(ワイシャツの海外での正式名称はドレスシャツ)。

参考|ワイシャツ・Yシャツ・カッターシャツの違いと名前の由来

近年はスーツのシルエットがコンチネンタルからトラディショナルに変わってきていることが話題になっていますが、この変化はワイシャツのトレンドにどのような影響を与えるのでしょうか。

ワイシャツのトレンドの変化とは、主に襟の形、色、素材、そしてスーツとの合わせ方の4点で考えるものです。そして、現在のワイシャツのトレンド変化と似ていると言われるのが1950年代後半です。

時代はまわると言いますが、本当に現代と1950年代後半は同じような変化が起きているものなのでしょうか。

今回は、「男子専科」「男の流行」などのメンズファッション雑誌に寄稿をしていた中野裕氏の執筆から、1958年3月1日発刊の「男の流行」の「新しくモノを考える/ビジネスシャツの新しい傾向」を引用して、シャツのトレンドを読み解いてみましょう。

※中野裕氏の著作者人格権を尊重し引用していますが、現代でも読みやすくするために最小限の改編をしています。

ビジネスシャツは背広の流行に左右される

昔からワイシャツ(ホワイトシャツが訛ったもの)と、ビジネスシャツの代名詞のように言われた通り、ビジネスシャツはほとんどが白と決まっていたが、ビジネスシャツが背広の流行に左右されるのはシャツの目的からして当たり前である。

最近の服飾界をリードしている背広の傾向が、一般的にはアメリカ調のナチュラルルックのアメリカンシルエット、アイビールック、それにコンチネンタルルックと言われて、ますます人気を集めている欧州のVルックなので、自然とビジネスシャツにもその影響が現れている。

ビジネスシャツの流行というとカラーの形がどうのこうのというだけで大半が決定されたものであったが、最近のビジネスシャツの流行はそれだけではなくなってきている。だが、カラーのスタイルがどのような傾向にあるのかをもう一度考えてみるのもお洒落人の常識として無駄には出来ない。

近年のアメリカ調のナチュラルルック、またアイビーリーグモデルのスリムな感覚から、ビジネスシャツのカラーもショートポイント全盛であったが、この春はナローラペルではあるが極端に狭い幅ではなくなりつつあり、トップモードに現れているのはやや幅広になったラペルがビジネスシャツのカラーにも影響して、極端なショートポイントではなくセミショート、カラーの開きも著しくないワイドスプレッドのものが圧倒的である。

またフランス、イタリアなどのモードが世界的にメンズファッションに勢力を伸ばしてきて、日本にも欧州調の服装が着られるようになってきたので、戦前にあったダブルのフレンチカフス、ダブルカラーが若い人の間にも人気が出て、この種のビジネスシャツもだいぶ一般的に流行するであろう。

アメリカのアイビールックの影響の成果、ボタンダウンやピンホールのカラーが依然として人気が集まっているのも特色のひとつである。

流行のカラースタイル数点

ここで流行のカラースタイルに少し触れてみよう。

ワイドスプレッドカラー

ワイドスプレッドカラー

最もわが国に人気のあるカラーで、ビジネスシャツのカラースタイルはほとんどがワイドスプレッドである。襟先(カラーポイント)が短く、襟開きの角度が大きい。現在多く見るこのカラーは、どちらかといえばレギュラーカラーに近い感覚のもので、やや短いかなといったところ。多くの人々に愛好されているナチュラルルックの服装によくマッチした襟型である。

ボタンダウンカラー

ボタンダウン

襟先にボタンホールをつけ、カラーをボタン留めにした型で、一次はパールや四角い変型のボタンをつけたのを見たが、最近は普通の貝ボタン。カラーにはスクエアにカットしたのとラウンドにしたのと2様式あるが、ビジネスシャツとしてはスクエアにカットしたほうが良い。

ピンホールカラー

ピンホール

これもカラースタイルというより、カラーピンでネクタイにアクセントを持たせるためだが、ドレッシーな感覚を持っているので、若い人の日常のビジネスウェアにはどうであろうか。このスタイルはラウンドカラーに多く、1枚くらいは持っていてもよいというビジネスシャツである。

ラウンドカラー

ラウンドカラー

襟先を丸くカットした襟型で、柔らかい感じのもの。ワイドスプレッドで丸みの大きいもの、ショートポイントの先をやや丸くカットしたものがあるが、後者のほうが人気もあるしエレガントな雰囲気を持っている。

色柄がビジネスシャツには大きな要素となる

ビジネスシャツにはホワイトシャツだけでなく、昔から色物でストライプ、チェック柄などあったが、ビジネスシャツの流行の中に色や柄が問題にされてきたのは取り上げてよい大きな特色である。世の中の落ち着きや欧州調の影響もあって、この春は圧倒的といってよいほど細かいストライプやチェック柄、また淡いブルー、グレー、イエローなどの中間色、渋い色調が多いのは服装の色調の影響大なるものがある。

近頃の流行色がチャコールトーン(消炭調)から、アッシュグレーやアンスラサイトグレーといった白っぽい灰色など、一般の流行の服地がニュアンスのあるライトトーンに移っているので、カラースタイルだけでなくビジネスシャツの色柄にまで流行が大きくものをいうようになったのである。したがって背広との併せ方にも個人の趣味や性格が現れて、男の服装にますます深みを加えてきている。

例えばブルー系統の柄物の上着にはライトブルーの無地、柄と見られるものには細かいストライプやチェックなど合わせるといったように、上着の柄、風合いなど感覚的なものからビジネスシャツを合わせていくと面白さがある。

生地質はどう変わった

ビジネスシャツの生地は綿ブロードが圧倒的に多く、実用的という意味でも当たり前のことである。このブロードシャツは値段もいろいろで、800円くらいより上のものでないと安心して着られないのではなかろうか。一度洗濯をすると後はダメになって着れないのは糊で固めて型を付けているもので、安いビジネスシャツなら文句がつけられないと思ったほうがよい。

他の生地には、ナイロン、シルク、オックスフォード、ギンガムなどいろいろあるが、ナイロンはまだまだ値段が高く一般的ではない。ブロード製品のビジネスシャツより趣味的で洒落た感覚のものにオックスフォードクロースがある。これは木綿製品で生地質がちょっと厚手だが、風合いから感じる味はなんといっても風雅なものである。この春はより多く一般の人に着られてよいビジネスシャツといえる。

※当時の大卒初任給はおよそ1万円、ラーメンが40-50円、米10kgで1000円ほど

着こなしにも流行がある

ビジネスシャツは背広に合わせて着るので、着こなしが問題になり、アメリカのアイビースタイルなどシャツにまで注文が付いてきている。

色物とか柄物の場合は、その背広に合わせるのが普通で、同系色の淡いビジネスシャツを選べば問題はない。

例えば茶系統のブラッキッシュブラウンのスーツには、淡茶(タン)とか、クリーム系のものなどが似合うが、最近ビジネスウェアの中にもスポーティなタッチの服(ツイーディなオッドジャケットとかフラノ、サキソニースポーテックスなどで作ったオッドジャケットをビジネスウェアに着るのが流行っている)が多くなってきたので、茶がかった千鳥格子のワイドジャケットには、逆にアッシュグリーンのビジネスシャツなど面白い。

ビジネスシャツは背広の下に着るものだから、背広のスタイルを壊す着方はどれだけ粋に見えても間違っている。背広のカラーから覗かせるシャツのカラーは1/4インチとだいたい決まっている。映画の影響で若い人の間には半インチくらい出す人が多くなっているが、標準が1/4であることは知っていて欲しい。また袖先から除かせるカフスも1/4インチというのが普通である。

※1/4インチ=6.35mm
現在は、襟・袖ともにジャケットから1.5cm程度シャツを覗かせる着こなしが良いとされている。

しかしビジネスシャツに流行があるように、そのビジネスシャツの着方にも流行があるのである。それはアイビーリーグモデルのビジネスシャツである。アイビーリーグモデル(型)の上着はカラーが低いので、シャツのカラーがぐっと広く出る。そしてビジネスシャツの袖口もぐっと出ている。アイビースタイルは袖丈がやや短いので、タバコなど吸うのに手を挙げるとシャツのカフスが大きく飛び出すといった風にこのスタイルにはそれだけの着方の注意がいるほどアイビースタイルの特徴の1つになっている。またボタンダウンのビジネスシャツはアイビースタイルにとってなくてはならないものである。

このようにビジネスシャツはカラースタイル、色柄とともに着方にまで流行が取り入られてきている。

したがって、ビジネスシャツを買う場合、首周りだけでなく、よく寸法の合ったシャツを買うべきである。そして色柄は自分の個性と流行をよく考え早稲手検討しないと、自分のスタイルを台無しにしてしまう恐れがある。

中野裕

1950年代のワイシャツのトレンドまとめ

本稿は1958年の「男の流行」の記事から抜粋したものですが、当時のシャツのトレンド変化の過程が現在とよく似ていることがわかると思います。

とくに市場がワイドスプレッドカラー最盛からボタンダウンに移ろうとしていたり、スーツのラペル幅に合わせてカラーがセミショートに変化しているなどは、現在起こっている変化と同じです。

ファッショントレンドは10年毎に大きく変化し、20年で螺旋状(要は進化するということ)に1周すると言いますが、まさに現在は本文献の3回目の20年周期に当たります。

ちなみに1950年代の文献を読む限り、当時の日本のアパレル業界ではワイシャツという用語は本来の「ホワイトシャツ」の意味で用い、今のワイシャツは「ビジネスシャツ」と表現していたようです。

当時から60年以上経つ現在で、当時と同様のスーツスタイルの変化が起ころうとしているのは非常に面白いですね。

ともすれば、当時のトレンドを追いかけ続けることが、現在のトレンド変化を予測する1番の近道になるのかもしれません。

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