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スリーピーススーツとツーピーススーツの違い
みなさんは、「スリーピーススーツ(three-piece suit)」と「ツーピーススーツ(two-piece suit)」の違いがわかりますか?
「スリーピーススーツがジャケット・ベスト(ジレ)・パンツ(トラウザーズ)の組み合わせで、ツーピーススーツがジャケット・パンツの組み合わせでしょ?」
ほぼ合っていますが、正しいスリーピーススーツとは、”同じ色柄の共布(ともぎれ)でできたジャケット・ベスト・パンツの組み合わせ”のことです。3つのアイテムを揃えて着ることから、「三つ揃え(みつぞろえ)」とも言います。
ツーピーススーツと別にあつらえたベストをセットアップしてもスリーピースに見えますが、ジャケット・ベスト・パンツが同じ生地でなければスリーピーススーツとは言えません。
なぜスリーピーススーツに明確な定義があるかと言うと、この組み合わせが英国で始まったスーツ(ラウンジスーツ)の起源だからです。
近年は、クラシックな英国スタイルが増えているため、スリーピーススーツが人気です。ただ、クラシックだと銘打っているからこそ、気をつけなければいけない着こなしのマナーや注意点があります。
そこで今回は、スリーピーススーツをかっこよく着こなすための基本的なマナーと注意点についてお話したいと思います。
スリーピーススーツの着こなしマナーと注意点
着こなし1.ベストでベルト・サスペンダーを隠す
クラシックなスリーピーススーツは、本来ベルトではなく「サスペンダー(suspenders)」でパンツを吊り上げます。
サスペンダーは下着と同じように人前で見せるものではないため、「サスペンダーを使う=ベストを着用する」ことが基本です。たとえ色柄を凝ったサスペンダーでもベストを使って隠し、チラ見せする程度に留めます。
現行のスリーピーススーツはほぼベルトループが付いているため、サスペンダーではなくベルトでパンツを固定しても構いません。ただしサスペンダー同様、ベルトが隠さなければいけません。そのため、ベストの丈はベルトのバックルが隠れる長さに合わせましょう。
着こなし2.ベスト下からネクタイがはみ出ない
ネクタイの長さはベルトにかかるくらいが基本ですが、その際にベストの下からネクタイがはみ出ないように注意しましょう。
また、ベルト部分はベルトとネクタイとベストが重なるため、膨らんでしまう場合があります。これを回避するためには、ネクタイをベルトに乗せすぎない、薄手で小さいバックルのベルトにするなどの工夫が必要です。
着こなし3.ベストの裾からシャツを見せない
ベストは中衣(ちゅうえ)として、シャツを隠す役割を持っています。スリーピーススーツのベストとパンツを合わせると、共布のため上下が一体に見えます。
もしベストとパンツのサイズが合わず、間からシャツが見えると、とてもかっこ悪い着こなしになります。
シャツが見える原因は、”ベストの丈が短い”か”パンツの股上が浅い”ことが考えられるため、基本的には股上が深いパンツを履いたうえで、ベストの丈を合わせなければいけません。
もちろん、パンツがずり落ちてもシャツが見えるため、都度ずり上げるのですが、その動作もスマートではありません。そのため、サスペンダーを使って吊り上げた方が便利なんです。
着こなし4.シャツ襟の剣先をベストで隠す
スリーピーススーツで着るドレスシャツの襟は、剣先がベストの下に隠れた方がスタイリッシュに見えます。
そのため、ウイングカラーは例外ですが、ショートポイントやボタンダウンなど、微妙にベストの下に隠れない襟のシャツは着ない方が良いでしょう。
ちなみに、シャツ襟の長さがギリギリ足りても、ベストが体型に合わずに肩に乗っかった状態だと胸部が浮いてしまい、シャツ襟がはみ出すこともあります。
着こなし5.スーツベストのみの外出は控える
スリーピーススーツのベストを「スーツベスト(suit vest)」、スーツとは違う布地で作ったベストを「オッドベスト(odd vest)」と言います。
オッドベストはデザイン性が高く、ベスト自体を楽しむ目的で単体で作られているため見せても良いのですが、スーツベストはシャツを隠す中衣であり、本来はあまり見せるものではありません。
たしかにスリーピーススーツを着ると、スタイリッシュで男らしい装いになるため、人に見せたい気持ちもわかります。ただ、あくまでもジャケット、ベスト、パンツが揃ってスリーピースだということは忘れないようにしましょう。
着こなし6.ベスト背面の尾錠は締めすぎない
ベストは、胴回りのサイズの余裕を持って着る服ではありません。そのため、胴回りに余裕があるベストを着て、背面の尾錠(びじょう)で締めて調整しない方が良いでしょう。
尾錠で胴回りを調整するとシワが寄ったり、ベストが身体から浮く原因になります。尾錠による調整幅はせいぜい2-4cm程度までです。
着こなし7.ベストのアンボタンマナー
スリーピーススーツのシングルベストのボタンは、5-6個が一般的です。ベストはアンボタンマナーに従って1番下のボタンを外します。ただし、剣先(裾)の開きが大きい作りのベストは、形状に応じてボタンをすべて留めても問題ありません。
前述した通り、ベストでベルトのバックルを隠す必要があるため、それに応じて留めるボタンの調整をしても良いでしょう。
ダブルベストは裾が水平のものが多いため、アンボタンマナー関係なくベルトが隠れる長さが必要です。
着こなし8.ジャケットのアンボタンマナー
スリーピーススーツのジャケットは、2つボタン・3つボタンに関係なく「フロントボタン全開でベストを見せることがマナー」とする説がありますが、アンボタンマナーに従えばフロントボタンを締めても構いません。
アンボタンマナーの詳細は以下を参考にしてください。
参考|2つボタン3つボタンスーツでマナーが違う?1番下を開ける理由
着こなし9.職場環境も考える
どのような職場にも、服装に対する考え方や文化があります。そして、服装に対する企業文化の多くは、明文化されているわけではありません。
スリーピーススーツをフォーマルになぞらえて格式が高いスーツだと捉えている人の中には、若い世代がスリーピーススーツを着ているだけで、「若いくせに生意気だ。」と考える人がいるかもしれません。
「日本って面倒だなぁ。」と思うかも知れませんが、こういったお話は日本に限ったことではありません。欧米は階級意識が強いため、日本よりも服装を意識すべきことがよくあります。このような服装に対する考え方や文化、TPOを理解することも大切です。
スリーピーススーツとマナーの考え方
必ずしも、スリーピーススーツ=クラシックな英国スタイルではありません。そのため、スーツの伝統とマナーを重んじるあまり、すべてのスリーピーススタイルに対して、
「スリーピーススーツはサスペンダーじゃなきゃダメだ!」
「ちょっとした外出でも、ベストのままだと失礼だ!」
「スリーピーススーツにボタンダウンはカジュアル過ぎる!」
など過剰に言い過ぎる必要はありませんが、そのように捉える人が少なくないことも知っておいた方が良いと思います。
このようなスーツの伝統の話をする場合、日本人にわかり易い例として和服や浴衣などに例えます。たとえば、浴衣なのに裾が膝上丈、茶髪で盛りまくり、腕まくり、肩出し、フリル付き……
「可愛ければいいじゃん。」「誰にも迷惑かけてないし。」「他人にとやかく言われたくない。」と言われたらそれまでですが、男性からすれば「普通の着こなしが一番可愛いのに……。」と思うはずです。
そして、”普通の着こなし”の線引が難しいため、マナーが決められるわけです。
スーツは元々貴族の平服。ただし庶民が着られるわけではなく、身分の違いを明らかにするために金銭やマナーというハードル、もしくは伝統という心理的ハードルが設けられています。
今人気のあるスリーピーススーツは、”伝統的な英国スタイル”のように打ち出されて店頭に並んでいますが、お安い店では2-3万円程なので、20代が2着目のスーツにもできるくらいです。
すべてのスリーピーススーツがクラシックな英国スタイルではないため、厳密ではありませんが、マナーを守らないことを「誰にも迷惑かけてない。」で済ませない着こなしをしたいところです。