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Jun.29

パンツの裾上げはダブルとシングルどっちが良い?幅の決まりは?

Written by伊藤進一郎

この記事を読むのに必要な時間は約 11 分です。

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パンツの裾仕上げはどうする?

「スーツのロールアップはカジュアル過ぎるよ。」
「パンツの裾を曲げると何だかおじさんみたい。」
「裾ダブルは偉い人がするんじゃないの?」

スーツを着て働いていると、一度は話題にのぼるのがスーツパンツの裾の形について。日本人の多くは、スーツを買うと最後にパンツの裾直しが必要ですね。

その際に、スーツ販売店のスタッフから、「裾の仕上げはシングルにしますか?ダブルにしますか?」と聞かれます。日本では一般的に、裾に折り返しがある仕上がりを「ダブル」と言い、折返しがない仕上がりを「シングル」と言います。

この裾シングルと裾ダブルの違いやそれぞれの特徴はわかりますか。

客「どっちの方がいいですかね?」
店「お好みによりますが、若い方にはシングルの方が人気がありますね。」
客「じゃあそれでお願いします。」

スーツ販売店で日々繰り返されるこのようなやり取り……。これではパンツの裾の仕上がりが、意味のないどうでも良いことのように思われてしまいます。

もし、あなたが今以上にスーツをうまく着こなしたいなら、裾の仕上がりにも意味と歴史があることを知る必要があります。

そこで今回は、裾のダブルとシングルの意味と歴史、そしてどう使い分ければ良いかについてお話したいと思います。

パンツ裾のシングル・ダブルとは

トラウザーズにしろ、スラックスにしろ、パンツを買うと最後に裾上げとともにシングルかダブルのどちらかに仕上げます。ダブルとシングルの形状の違いは、とくに説明の必要はありませんね。

大きな違いがあるとすれば、シングルは裾に多少のたゆみ、つまりクッション(ブレイク)を入れてもおかしくありませんが、ダブルはクッションを入れません。つまり、シングルよりダブルの方が少し短めに履きます。

さて、ここで正式な呼び方を覚えておきましょう。欧米ではこの裾仕上げのことをシングル・ダブルとは言いません。

一般的には、シングルのことを「プレーンボトムス(plain bottoms)」、ダブルのことを「カフドボトムス(cuffed bottoms)」と言います。ダブルは「ターンナップ(turn up)」とも言います。また、折り返した裾は日本語で「かぶら」と言ったりもします。

冒頭でお話した通り、最近は若者がプレーンボトムスを選ぶ傾向があったため、カフドボトムスは年配者(または時代遅れ)のイメージを持っていた人もいるはずです。

後で説明しますが、プレーンボトムスとカフドボトムスはトレンド云々で選ぶのではなく、スタイリングや作りたいイメージで選びます。簡単に言うと、プレーンボトムスは足元が軽やかでスッキリしたイメージ、カフドボトムスは重厚感があるイメージになります。

ちなみに、欧米のビジネススーツは、どちらかというとカフドボトムスが一般的です。とくにイタリアのサルトリアでは、プレーンボトムスはエレガントではないと言う職人もいるそうです。

裾仕上げのカフドボトムス(ダブル)の由来

そもそも、パンツの裾の仕上げにプレーンボトムスとカフドボトムスがある理由は何でしょうか。

元々パンツの裾はプレーンボトムスで、後からカフドボトムスが生まれました。例によって、カフドボトムスの由来はいくつもありますが、どの説にしろ19世紀末ごろ、雨や泥などの汚れ対策、動きやすさ対策の一環として生まれたことは共通しています。

  • アメリカの晩餐会に出席した英国貴族が雨で裾が汚れることを嫌って裾を曲げていたこと
  • 英国下院議員のルイスハム子爵が雨でぬかるんだパドックで裾汚れを防ぐために折り曲げたこと
  • スコットランドの貴族がスポーツハンティング中に裾が汚れないように折り曲げたこと

つまり、裾を曲げてカフドボトムスにすることは機能の追加であり、カジュアルな仕様だということになります。そのことからも、フォーマルウェアのパンツの裾はプレーンボトムスにしなければいけません。

フォーマルがプレーンボトムスの理由

カフドボトムスがカジュアル仕様であることとは別に、フォーマルウェアがプレーンボトムスである理由があります。

それは、タキシードや燕尾服など夜用のフォーマルウェアのスラックスには側章(ブレード、またはサイドストライプ:side stripe)を付ける仕様があるためです。側章があると、生地を折り曲げてきれいなカフドボトムスにはできません。

側章の起源は18世紀末ごろ、ナポレオンが側章の色で兵士の所属を分けるために採用したことが始まりとされ、それが現在もフォーマルウェアの装いとして残っています。

※側章とはシルク素材の飾りテープのことで、現在は主にフォーマルウェアに用いられる。側章はタキシードが1本、燕尾服には2本施すことが正式とされるが、これは日本独自の習慣で本数はどちらでも良い。

プレーンボトムスとカフドボトムスのメリット

今現在で言えば、日本のオーソドックスなパンツの裾はプレーンボトムスです。ただし前述した通り、欧米では一般的にカフドボトムスが多く、その理由としては好みだけでなく、フォーマルとビジネスの使い分けなどが考えられます。

とは言え、すべてのビジネススーツがカフドボトムスなわけではなく、それぞれが持つメリットで使い分けられています。

プレーンボトムス(シングル)のメリット

プレーンボトムスのメリットは、足元がスタイリッシュに見える、足がスラッと長く見えることです。

ジャケットとパンツのボリュームを合わせることは、スーツの着こなしの定石なので、細身のシングルブレストが好きな人は、足元もスマートに見えるプレーンボトムスの方がバランスが良いですね。

テーパードの裾のすぼまりを強調したい場合も、プレーンボトムスの方がシルエットの違いがはっきりわかります。

また前述した通り、日本ではオーソドックスだからという理由でプレーンボトムスを選んでおけば、悪目立ちしないことがメリットに考えられます。

カフドボトムス(ダブル)のメリット

一方、昨今流行りのダブルブレスト、スリーピーススーツに合わせるなら、カフドボトムスの重厚感がちょうどよくハマります。

立体的な上半身は男性の力強さを表し、きれいな逆三角形のシルエットが好まれますが、足元がヒョロヒョロではいけません。裾か靴のどちらかは重厚感がある方が良いのですが、靴がプレーントゥやストレートチップならカフドボトムスが似合います。

カフドボトムスはカジュアルなイメージもあるため、オフでパンツを履きたい人にも合わせやすいディテールでしょう。

裾の折り返し幅は何cmがベスト?

カフドボトムスによる裾の折り返し(かぶら)幅は、基本的に4-4.5cm、とくに身長が高い人は4.5cmの方がバランスが良くなると言いますが、これは恒久的な決まりではありません。

実際にわたしがスーツを着たてのころ(15年ほど前)は、折り返し幅を3.5cmにしてもらっていました。現在は、折り返し幅が太めの方がおしゃれだと感じる人が多いようです。

ただし、何をもっておしゃれと感じるかは人によるため、ひとまず裾幅はオーソドックスな4cmにして、スーツを着て靴を履いた状態で鏡とにらめっこをしてみてください(日本人は流行好きなので、太めが流行るとつい5cm、6cmと極端に走りがち)。

ちなみに、カフドボトムスは折り返した生地の重みがあるため、パンツがストンと落ちて、センタークリース(センタープレス)がきれいに出やすくなります。

参考|パンツのセンタープレス(クリース)は必要?折り目が消える理由は?

スーツパンツは、センタークリースがきれいに出てなんぼのところもあるため、折り返し生地の中に5円玉を縫い付けて重みを付けるというのは、昔からあるテクニックの1つだったりします(薄い生地でやると5円玉の形が出ます……)。

プレーンボトムスとカフドボトムスはどっちが良い?

裾仕上げをプレーンボトムス(シングル)とカフドボトムス(ダブル)にする意味や歴史的な背景はわかったと思いますが、どちらの方がおしゃれだと思いますか?

もちろん好み次第ですが、わたしなら「どっちかと言えばカフドボトムスかな?」と答えます。理論的ではなく単なるイメージです。

日本では裾を折り曲げることは裾直しの一環と考えますが、欧米ではそれ自体が装飾の意味合いを持ちます。

たとえば、テーパードパンツの裾を短く直すとシルエットが変わりますよね。そのためシルエットを変えずに裾上げをするなら、サイドからバラす必要があるため、プレーンボトムスの方が都合が良いわけです。

ところが、イタリアのサルトリア(テーラー)では、カフドボトムスでも裾幅を変えずにシルエット全体に手を入れる直しが当たり前だそう。翻って、カフドボトムスのおしゃれが強調されるお話だと感じました。日本ではなかなか考えられません。

裾幅はオリジナルのパンツと同じ状態で修理するというのです。もちろん太ももでつまんだところだけを直すわけではありませんので、脇をすべて開けてシルエットすべてを修理するらしいのです。

引用|イタリア式パンツ修理法~裾は折りません! /FERIC

日本ではそこまで考える必要はないにしろ、パンツの裾は靴のついでに割とよく見られる部分ではあります。

これまでパンツの裾はプレーンボトムス(シングル)ばかりだったという人は、1度カフドボトムス(ダブル)にしてみてください。きっと、スーツの装いがこれまでと変わって見えますよ。

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