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ノータック・ワンタック・ツータックとは
これまで、トラウザーズ(スーツパンツ)やスラックス(単体のパンツ)を買うときに、「タック(tuck)」の有無で選んだことはありますか?
参考|パンツ、ズボン、スラックス、トラウザーズ、ボトムスの違い
「タック無しパンツ=若者・細め」「タック有りパンツ=おじさん・太め」というイメージを持つ人も多いため、初めから「タックパンツは自分が履くパンツではない。」と除外している人もいるかもしれません。
少し前までは、タックパンツを見かける機会も減っていたため、タック自体に馴染みがない人も増えていますね。タックとは、パンツの腰部分に入った1本、または2本のヒダのことです。
日本では、このように2本のヒダが入っている場合は「ツータック」、ヒダが1本の場合は「ワンタック」と呼び、ヒダがないパンツを「ノータック」と呼ぶことが一般的です。
このパンツに入ったタックには、どのような役割があるのでしょうか。また、ヒダと言えば、タック以外にも「プリーツ」や「ダーツ」などが思い浮かびますが、それらとの違いはあるのでしょうか。
今回は、タック・プリーツ・ダーツの違いと役割、また本当にパンツにタックが入っているとおじさんっぽいのかなどについてお話したいと思います。
タック・プリーツ・ダーツの違い
タック、プリーツ、ダーツは勘違いされやすい装飾ですが、それぞれ意味や使い所が異なります。とくに、タックとプリーツを勘違いしている日本人は少なくありません。
ダーツ(darts)とは
まずは、もっともわかりやすいダーツの特徴から。ダーツ(darts)とは、平面の生地の一部分を三角形に縫い合わせる装飾を言います。縫って閉じてしまうため、表面生地に大きな立体感はありません。
わたしたちが普段着るスーツジャケットは、この位置にダーツが入っています。スーツの前面に入ったダーツを「フロントダーツ」と言い、長さ・深さによってウエストシェイプの度合いを変える役割があります。
プリーツ(pleats)とは
プリーツ(pleats)とは、生地の伸縮などのゆとりを持たせるため、また生地に立体感を出してエレガントに見せるために、布を折って作るヒダのことです。
プリーツは1本1本きちっとヒダ先まで折りが入っているため、山の頂点が明確な尖ったイメージ、堅いイメージがあります。ただ、連続したプリーツは生地の躍動感から柔らかさを表現します。
わかりやすいプリーツを挙げると、セーラ服など女性のスカートによく入っているヒダがプリーツにあたります。
タック(tuck)とは
タック(tuck)とは、生地にある余分なゆとりを畳んだり、寄せてできるヒダを言い、飾りのためにわざと作ることもあります。
タックは、縫い合わせ部位にのみ折りが入ります。つまり、プリーツのようにしっかりと生地を折るわけではありません。
ここでよくある勘違いですが、実はパンツに入ったヒダはしっかり折り山が付いているため、タックではなくプリーツです。
タックとは、ナポリのスーツに見られる「マニカカミーチャ※」のように、生地が寄ったヒダ部分を言います。マニカカミーチャは、見た目から「雨振り袖」、袖付け方法から「シャツ袖」とも言われます。写真を見ると袖のヒダがよくわかります。
※マニカカミーチャ(Manica Camicia)とは、シャツの袖付けの様に肩にヒダを寄せて袖付けをするナポリの伝統的技法のこと。肩周りの可動域が広がることで、動きやすさや着心地が格段に増す。
パンツなどの生地にプリーツがある理由
パンツに入ったヒダはタックではなく、プリーツ(ここからプリーツ表記にします)だということがわかりました。では、パンツにプリーツが入っている理由は何でしょうか。
理由1.腰・お尻・太ももにゆとりを作る
そもそもパンツに入ったプリーツには、「ウエスト幅を無理に広げずに腰下~お尻周りにゆとりを作る」という効果があります。
つまり、ウエストが太めでパンツが苦しい人は、プリーツよりもウエストサイズに気を使った方が良いわけです。プリーツは、腰周りよりもお尻や太ももが大きい人にメリットのあるディテールです。
逆に言うと、本格的なスポーツマン体型の人はウエストが細い割にお尻が大きいため、プリーツを入れなければパンツがパンパンになってしまいます。
理由2.クラシックなエレガントさを出す
昔から、生地にヒダを入れるのは生地の柔らかな質感を明らかにして、エレガントさを強調するためです。
たとえば、肩や袖にプリーツが入った女性のブラウスを見ると、柔らかでエレガントさが出ていることがわかります。また、ネクタイに作るディンプルにも、陰影による生地の質感と立体感を出す効果があります。
参考|ディンプルの意味や種類は?作りやすいネクタイと崩れにくい作り方
とくにヒダは、伝統的な装いに多く採用されているため、プリーツが入った服装はクラシックな雰囲気が出やすくなります。これもクラシックな英国調(ブリティッシュトラディショナル)人気が高まっていると言われる所以ですね。
プリーツの起源・歴史
スーツの原型であるラウンジスーツのパンツには、元々プリーツが入っていません。パンツにプリーツが入れられるようになったのは、1920年頃からと言われています。
1920年代当時、英国の学生の間で「オックスフォードバッグ(oxford bags)」というヒダが強調されたワイドパンツが流行りました。
オックスフォードバッグはあまりにもワイドなパンツだったので、腰部分に布が余っていましたが、その布をヒダ状に寄せて縫い合わせて履くようになりました。
それ以来、パンツの腰回りにゆとりを持たせたパンツの余った布はヒダ状にして、きれいなシルエットを保つ工夫としてプリーツが採用されるようになりました。
体型に応じてプリーツなしのパンツ(プレーンフロント)、プリーツが1本のパンツ(ワンプリーツ)、プリーツが2本のパンツ(ツープリーツ)が選択できるようになったのです。
プリーツの有無によるパンツの違い
違い1.プレーンフロント(ノータック)
ヒダがないパンツをノータックと呼んでいる人も多いと思いますが、正式には「プレーンフロント(plain front)」と言います(ノープリーツではない)。
プリーツがないとパンツの腰下~お尻周りが細くなるため、そのままストンと落ちるストレートシルエットのパンツに向いています。ただし、お尻周りに余裕がなくなるため、腰位置が低く、股上が浅いパンツになりがちです。
プレーンフロントは、全体的に細身で股上が浅いため、カジュアルなシャツの方が合わせやすくなります。
違い2.ワンプリーツ(ワンタック)
少し前までは、プレーフロントのパンツが流行っていました。そのため冒頭でお話した通り、「タック無しパンツ=若者・細め」「タック有りパンツ=おじさん・太め」というイメージを持つ人が多かったのです。
ただ現在は、ヒダが一本の「ワンプリーツ(one pleats)」で腰下~お尻周りに余裕を持たせて、裾を絞ったパンツ(テーパードなど)が売れています。テーパードシルエットを強調するため、ツープリーツも増えているようです。
もちろん、プリーツの有無は履きやすさで決めるべきですし、細く見られたいからと言ってパツパツなパンツを履くと、余計にお尻周りのボリュームが強調されてしまいます。
違い3.ツープリーツ(ツータック)
プリーツが左右に2本ずつ入った「ツープリーツ(two pleats)」のパンツは、お尻周りにかなりの余裕ができます。
ただ、ツープリーツだからといってスマートに履けないわけではなく、膝幅、裾幅を詰める調整によって、きれいなシルエットを出すことが可能です。
とくに最近は、スリーピーススーツやダブルブレストのように上半身にボリュームがある着こなしが増えているため、パンツも腰下~お尻周りにある程度ボリュームがあるシルエットの方がバランスが良くなります。
プリーツパンツ(タックパンツ)はダサい?
では、今はプリーツが入ったパンツとプレーンフロントのどちらを選んだ方がかっこいいのでしょうか。
結論を言うと、パンツのプリーツの有無で、どっちがかっこいい・かっこ悪いは関係ありません!
もちろん、プリーツの有無はそれぞれ履き心地が変わりますし、着こなしのシルエットにも影響を与えます。そして、時代によって流行り廃りがあることも間違いありません(とくに日本では)。
前述した通り、パンツのトレンドという観点だけで見ると、すでにプレーンフロントからシングルプリーツに変わったと言えます。
ただし、トレンドに振り回されて良いのは20代まで。「今まではプレーンフロントがトレンドだから選んでいたけど、これからはワンプリーツがトレンドだから……。」というのはナンセンスです。
- 上半身にボリュームがある場合はプリーツを検討する
- お尻周りが小さい場合はプレーン、大きい場合はプリーツを検討する
- テーパードシルエットを出す場合はプリーツ入りで、膝・裾幅を直す
- カジュアルパンツにも使用したい場合はプレーンを検討する
- スッキリフレッシュ感を出したい場合はプレーンを検討する
- 重厚感・エレガントを出したい場合はプリーツを検討する
パンツをきれいに履くためには、プリーツの有無も含めて全体のトータルバランスが大切です。そのため上記のポイントを見ながら、パンツのプリーツの有無を考えてみてください。
いずれにしろ、基本的にお尻周りが細身の人はプレーンフロント、ボリューミーな人はワンプリーツ・ツープリーツを選んだ方が着こなしやすいということは覚えておきましょう。