スーツに合わせるシャツの呼び方
普段、スーツに合わせて着るシャツのことを何と呼んでいますか。
多くの人が「ワイシャツ(Yシャツ)」と呼んで(表記して)いるはずですが、「カッターシャツ」と呼ぶ人もいるでしょう。また、スーツには「ワイシャツ」、学ランには「カッターシャツ」を着ると認識している人もいるでしょう。
J-CASTニュースが255名を対象に行なったアンケートによると、「スーツはワイシャツ、学ランはカッターシャツ」と認識している人は22.7%、「ワイシャツとカッターシャツは同じ」と認識している人は35.6%いるそうです。
出典|カッターシャツ=学生のイメージは、どうして根付いたの?(全文表示) – Jタウン研究所 – Jタウンネット 東京都
では、ワイシャツとカッターシャツには、どのような違いがあるのでしょうか。また、ワイシャツをYシャツと表記する際の「Y」とは何のことでしょうか。
今回は、ワイシャツ・Yシャツ・カッターシャツの違いと名前の由来についてお話したいと思います。
ワイシャツとYシャツの違い
ワイシャツとは、男性がスーツジャケットの下に着る台襟・カフス・前立てが付いた前開きシャツのことを言います。
元々ヨーロッパにおいてシャツは下半身も含めた下着の役割があり、現在の下着が登場するまでは、今よりも長いシャツテールの前後をボタン留めして、下半身を覆っていました。
この名残が現在のシャツの形に残っています。そのため、シャツは人に見せてはいけない下着姿であり、白無地のみでした。
ところが、1900年代初頭、アメリカで現在の下着の原型が登場すると、次第にシャツを中着・外着として活用する工夫がされるようになります。それが半袖シャツや色柄シャツだったり、胸ポケットやボタンダウンなどのディテールだったりするわけです。
日本にシャツが入ってきたのは明治時代ですが、白無地シャツが浸透する過程でホワイトシャツ(white shirt)という呼び方が訛って、ワイシャツと呼ばれるようになり定着していきました。
その後、ワイシャツは販売しやすいように「Yシャツ」と表記されましたが、どちらにしても同じものを指します。つまり「Y(ワイ)」は単なる当て字で、特に意味はありません。
もちろん、ワイシャツは日本だけの呼び方のため、英語圏でワイシャツと言っても通じません(言い方次第でネイティブなホワイトシャツと勘違いされるかもしれませんが)。
ちなみに、欧米ではワイシャツのことをドレスシャツ(dress shirt)、または単純にシャツ(shirt)と呼んでいます。
ドレスシャツの定義
では、ドレスシャツ(dress shirt)とは、どのような特徴を持ったシャツを言うのでしょうか。
前述した通り、日本語で言うワイシャツは本来ドレスシャツのことなので、正式なビジネスシーンでジャケットの下に着るシャツはすべてドレスシャツです。
つまり、ホワイトでもブルーでも、無地でもストライプでも、クレリックでもスタンドカラーでも、ビジネスシーンで着用するシャツはすべてドレスシャツです(ただし、カジュアル度合いはTPOによって異なる)。
参考|ワイシャツとカジュアルシャツの違いは?着こなしに違いはある?
ドレスシャツの素材の多くはコットン100%、シルク100%、またはポリエステル混などで、生地はブロードまたはオックスフォードの平織がメインです※。
※織り物は平織、繻子織、綾織の3種類で、ヘリンボーン、ジャガード、ドビーなど模様を出す織り方は変わり織り。
ちなみに、前身頃にプリーツが入ったヒダ胸(プリーテッドブザム)シャツはタキシードに合わせるため「タキシードシャツ(tuxedo shirt)」、胸に芯地を入れた烏賊胸(スターチドブザム)シャツは燕尾服やタキシードに合わせるため「イブニングシャツ(evening shirt)」と言い、ドレスシャツとは分けられています。
ワイシャツとカッターシャツの違い
ワイシャツ(Yシャツ)の由来もわかりましたし、ドレスシャツの定義もわかりました。では、カッターシャツとはどのようなシャツなのでしょうか。
実は、カッターシャツもワイシャツ同様、日本だけの呼び方です。カッターシャツは、スポーツ用品大手の「ミズノ(美津濃株式会社)」が1918年に販売したスポーツ用・アウトドア用のシャツの商品名に由来します※。
ミズノによると、この商品名を考えたのは創業者の水野利八。水野は野球観戦が大好きで球場によく足を運んだ。どんな名前で売り出そうかと悩んでいた水野は「勝った、勝った」とひいきのチームの勝利を喜ぶ観客を見て「カッター(勝った)シャツ」を思いついたという。
今でこそワイシャツとカッターシャツは同じ意味で使われますが、元々はスポーツシャツの製品名なんです。そして、ミズノが大阪にあることから、今でも関西の方がワイシャツをカッターシャツと呼ぶ傾向が強いようです。
※カッターシャツを「cutter shirt」として、手漕ぎボートの形をしたシャツとするなど由来は諸説ある。
結局ワイシャツと呼べば問題ない?
「結局、スーツに合わせて普段着ているシャツは何と呼べばいいの?」と問われたら、今の日本では”ワイシャツ”と呼ぶことが無難です。
ちなみに、紳士服業界ではもちろん”ワイシャツ”と呼びますが、最近は”メンズシャツ”と呼ぶことが増えましたし、ファッション業界の各所では正式名称の”ドレスシャツ”という呼び方も増えたように感じます。
わたしの記憶が確かなら、わたしが子供のころはワイシャツよりもカッターシャツという言い方をよく聞いたような……気がします。
どんな業界でも時間が経つにつれ、物の名称や定義は変わっていきます。もちろん、呼び方自体にこだわる必要はありませんが、正しい着こなしを理論的に知りたい場合は、名前の由来など歴史を知ることも大切です。
ドレスシャツの基本はホワイトシャツです。最近はカラフルなシャツも増えましたが、白いシャツをベースにしてスーツ、ネクタイ、ベストで何パターンか作ってみると、着こなしの軸ができてコーディネートに幅が生まれます。
そういう意味で「基本はホワイトシャツだな。」とワイシャツの語源を意識してみるのも良いかもしれません。