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スーツにはアンボタンマナーがある
「アンボタンマナー(unbuttoned manner)」という言葉を聞いたことがありますか?
就活生向けの情報が充実したことで、スーツの着こなしにおけるアンボタンマナーを知っている人が増えたように思います。
アンボタンマナーとは、スーツの上着のフロントボタンの中で、決まったボタンを外して着こなすマナーのことです。仮にアンボタンマナーという言葉を知らなくても、フロントボタンの1番下を外して着るというルールを知っている人は多いでしょう。
わたしが就活をしていた十数年前は、スーツのボタンをきっちり全部留めている人がチラホラいましたが、今はほとんど見かけることはありません。
見かけるとしても、スーツではなくカジュアルなジャケットのボタンを全部留めている若者がたまにいるくらいですね。あれは自分なりの個性の現れなのか、アンボタンマナーを知らないからなのか……。
では、なぜスーツにはアンボタンマナーというものがあるのでしょうか。ジャケットに、留める必要がないボタンをわざわざ付けておくのはなぜなんでしょうか。
今回は、スーツのフロントボタンのマナーについてお話したいと思います。
スーツの種類とアンボタンマナー
アンボタンマナーは、スーツの種類によって留めるボタンと外すボタンが異なります。特に気をつけたいのは、2つボタンスーツと3つボタンスーツの違いです。それぞれルールを覚えておきましょう。
参考|段返り3つボタンとは?2つボタン・3つボタンスーツの違いは?
1.2つボタンのツーピーススーツ
まず、現在もっとも多く流通している2つボタンのツーピーススーツです。
ジャケットが2つボタンの場合、1番上(第一ボタン)のボタンを留め、下(第二ボタン)のボタンは外して着用します。2つボタンのジャケパンスタイルも同様で、下段のボタンを外して着ることがマナーです。
2.3つボタンのツーピーススーツ
3つボタンのツーピーススーツは、第一ボタンと第二ボタンを留め、第三ボタンを外して着用することがあり、これを「上2つ掛け」と言います。
ただし段返り仕様※の3つボタンスーツは、第一ボタンがラペルに隠れているため、第二ボタンだけを留めて着用します。現在、3つボタンスーツの多くは段返りなので、留めるボタンは第二ボタンのみです。これを「中1つ掛け」といいます。
※段返りとは、ジャケットの第1ボタンをラぺル裏に隠したボタン仕様のこと。段返り3つボタンは1900年以前にブルックスブラザーズが作り、それがイタリアに伝わったため、英国のクラシックなスタイルに段返り3つボタンはない。
3.ダブルブレストスーツ
ダブルブレスト、いわゆるダブルのスーツは4つボタン、6つボタンが基本です。4つボタン1つ掛け、4つボタン2つ掛け、6つボタン1つ掛け、6つボタン2つ掛け、6つボタン3つ掛け……8つボタン以上もそれぞれ掛け数とともに存在します。
ダブルブレストにはアンボタンマナーはなく、下段のボタンを留めても問題ありません。同業者で下段ボタンを外す人も多いのですが、せっかくダブルならきっちり留めた方がかっこいいのに……というのは個人的な好みです。
参考|シングルとダブルの違いは?スーツの格式や年齢、体型など注意点
4.スリーピーススーツのベスト
最近のトレンドの1つがスリーピーススーツです。就活生や新入社員には必要ありませんが、仕事に慣れてきた社会人は、マナーを踏まえたうえで大人の魅力が出るスリーピースも検討したいところです。
参考|スリーピーススーツの着こなしとマナーは?ツーピースとの違いは
スリーピーススーツで着るジャケットには、2つボタン・3つボタンがあり、フロントボタン全開でベスト(ジレ)を見せることがマナーとする説もありますが、前述したアンボタンマナーに従っていればボタンを閉じても構いません。
ジャケットのボタンを全開にしても、シャツが見えないため失礼ではない(ヨーロッパではシャツは元々下着を意味する)というだけのことです。さて、問題は中に着ているベストですね。
シングルブレストのベスト
シングルブレストのベストのボタンは4-6個が一般的です。よりフォーマルな仕様はVゾーンが狭くなる5-6個、4個以下はVゾーンが広くカジュアル感が強くなります。どれが正解ということはありませんが、まずは5-6個から始めましょう。
5-6個のボタンの場合、1番下のボタンを外します。ただし、剣先(裾)の開きが大きく作られたベストは、ボタンをすべて留めても問題ありません。これは見た目で判断するしかないですね。ジャケットに比べて、ベストの方がディテールの自由度があるということです。
参考|ベスト・ジレ・チョッキの違いは?ベストの種類とチョッキの由来
ダブルブレストのベスト
ダブルブレストのベストのボタンは、6個か8個が一般的です。こちらもダブルのスーツ同様アンボタンマナーはなく、下段ボタンを外すさずに着用した方が見栄えが良いと思います。
1番下のボタンを開ける理由
- 1つボタンのモーニングと平服であるスーツを区別するために飾りボタンを1つ増やしたから
- ジョージ4世がうっかりボタンを外していたのをフォローするためにボー・ブランメルが外してトレンドになったから
- 節制不足で太ってしまったエドワード7世が下段ボタンを外したことから
- 馬に乗る際に下段ボタンを留めていると乗りにくいことから
ジャケットの1番下のボタンを外す理由には、上記のようにいくつかの説・起源があります。ただ、今はボタンを開けるというより、余計なボタンが付いていると捉えた方がスッキリします。つまり、1番下のボタンは飾りです。
スーツの形は時代によって変化しますが、今のようにウエストに絞りが入ったのは1930年頃です。
前身頃にフロントダーツが付き、ウエストの絞りを自然に見せるために、フロントボタンの位置が全体的に下がりました。それによって、シルエットからしても下段ボタンを留める必要がなくなりました。
現在のスーツはナチュラルウエストで留めるボタンを頂点として、裾に向かって斜めにフロントカットが入っています。そのため、下段ボタンを留めるとスーツに余計な横シワができてしまいます。
中1つ掛け(上2つ掛け)は腰のくびれが強調されるため、肩幅を頂点とした上半身が大きく見え、男性的なシルエットに仕上がります。
ここで1つ、第35代アメリカ合衆国大統領「ジョン・F・ケネディ」の有名な逸話を紹介します。ケネディ大統領は主に2つボタンスーツを着ていましたが、上下両方のボタンを留めていました。
出典|Joe Kennedy Reportedly Threatens To Remove RFK Files From JFK Library CBS Boston
これはケネディ大統領がアンボタンマナーを知らなかったのではなく、演説でオーバーリアクションをした際にジャケットの隙間からシャツが見えるのを嫌ったためだとか。
もちろん、すべてのボタンを留めてもシワが寄らないようボタン位置を上げ、かつ第二ボタンを内側に調節したカスタムスーツ(オーダー)だったそうです。
ケネディ大統領のように、2つボタンスーツで第二ボタンを留めるなどアンボタンマナーのルールから外れるのであれば、そもそものスーツのシルエットを変えなければおかしな着こなしになるということです。
イスに座るときのアンボタンマナー
もともとスーツは英国紳士の平服です。ただ、平服と言っても庶民が着る服ではないため、立ち居振る舞いに意味がある厳格なマナーを設けて階級の差を明確にしなければいけません。
とくにスーツの着こなしで大切なことは、「きれいなシルエットを作ること」と「シワを作らないこと」です。この2つをもとに立ち居振る舞いのマナーが決められています。
たとえば、スーツを着たままイスに座る際、ボタンを留めているとスーツにシワができてしまいます。そのため、イスに座る際はさり気なくフロントボタンを外し、立つときにボタンを留め直すというマナーがあります。
日本ではドレスコードがあるお店くらいしか意識する場所がないため、あまり知られていないかもしれません。
というところから、就活生に対して「面接の際は座るときにボタンを外すのがマナーです。」と教える就活情報があります。たしかにスーツのマナーとしては間違っていませんが、残念ながら日本でこのマナーは常識ではありません。
一般的に、日本では”きっちりかっちり”が良い印象を与えるため、面接などでスーツのフロントボタンを外して座ると「ずいぶん生意気だな。」と思われかねません。
マナーの観点からすればおかしな話ですが、場所に合わせて立ち居振る舞いを考える必要もあるということです。ちなみに、これはシングルブレストの話で、ダブルブレストはボタンを留めたまま座ります。
着こなしのマナーを知るとおしゃれに見える
スーツにはボタンだけでも、このような着こなしのマナーがついて回ります。これを面倒だと思う人も少なくないと思います。
ただ誰もが服を着るうえで、かっこよく見られたい、おしゃれに見られたいという願望は持っているはずです。そのため、このようなスーツの着こなしのマナーを守ることは、おしゃれに見られるための方法だと認識すると良いと思います。
本来、スーツやジャケット以外のカジュアルな服にも、おしゃれに見られるための色・柄の合わせ方や着こなしの法則、ちょっとしたテクニックによるシルエットのきれいな見せ方があり、知っている人はその方法を大いに活用しているはずです。
スーツにこれだけ細かいマナーが多いのは、英国紳士の嗜みから始まったスタイルなので、後世のために厳格な着こなしが見える化されているためです。つまり、スーツスタイルには、かっこよく見えるある程度の正解が用意されているということです。
マナーを知ることはスマートな着こなしにつながり、スマートな着こなしは立ち居振る舞いの自信につながります。
スーツを面倒くさいと思っている人は少し見方を変えて、マナーを知るだけでかっこよく見られる、おしゃれに見られる便利な服装だと前向きに捉えてみてください。
マナーを知るほど、スーツの便利さやコスパの高さに気付くと思いますよ。