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May.22

アパレル業界に必須なSPAとは?スーツ小売店とSPAの将来性

Written by伊藤進一郎

この記事を読むのに必要な時間は約 11 分です。

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昔の服は高かった…

今の若者に言うと100%引かれると思いますが、現在アラフォーのわたしが10代の頃、つまり20年近く前は服の値段は今より高価でした(よね?)。

すべてではありませんが、おしゃれに気を使うならTシャツ1枚1万円~、シャツ1.5万円~、パンツ2万円~は珍しくなかったため、とにかくセール時期とアイテムの見極めはとても大切だった記憶があります。

もちろん、今もそれくらいの値段のアイテムはたくさんあります。でも、昔ほど高価な洋服を揃える人は少なくなりました。その理由は、質が良くて今どきなシェイプの洋服が圧倒的に増え、いつでも安く買えるようになったからです。

これはカジュアルな服に限った話ではなく、スーツやジャケットでも全く同様です。

以前に比べて年間のスーツ購入額は減少していますが、これはスーツを購入する機会が極端に減ったわけでも、単純にデフレで商品価格が落ちただけでもありません。

スーツの購入額の推移
出典|25年間で「7割減!?」紳士服業界の市場規模、しかし大手4社の業績が堅調である謎? | アパレルコンサルティング/マーケティング【売上向上の仕組み構築】

服やスーツをより効率的に、販売しやすいビジネスモデル「SPA(エスピーエー)モデル」で展開するアパレル企業が増えたことも、服やスーツの単価が下がった要因の一つです。

今回は、スーツ取扱店も取り入れているSPAモデルについてお話したいと思います。

SPAモデルとは

SPA(speciality store retailer of private label apparel)とは、いわゆるアパレル業界において、仕入れ販売をする小売業者が、自社ブランドのオリジナル商品の開発・製造・販売までを一括して行う方法を言います。よく「製造小売」や「製造販売」とも呼ばれます。

以前のアパレル業界は、大手でも衣料品を仕入れて販売する小売業がメインでした。なぜなら、戦後はずっと新しい衣料品が作られ、常に衣料品があれば売れる時代だったため、わざわざ畑違いの製造に手を出す必要がなかったからです。

ところが、市場にモノが溢れてくると消費者ニーズが多様化し、旬に左右される衣料品は売れ残りが目立つようになります。小売業にとってもっとも痛手なのは、シーズンを過ぎた商品が売れ残ることです。

売れ残りを作らないためには、如何に早く「売れ筋商品」を把握して、正確に工場に「追加発注を頼むか」が、つまりリードタイムの短縮化が重要でした。

そんな中、時代とともに製造技術が上がり、モノを大量生産できるようになると製品の生産単価は下がります。さらに、POSシステムの精度や情報分析力が上がったことで、日々の売れ筋商品と客層の傾向の把握が容易にできるようになりました。

つまり、「売れ筋商品が日・週単位で把握できて、リアルタイムに消費者ニーズがわかるだけでなく、シーズンの販売予測も立てやすいため、売れ残りリスクを減らすことができる」という道筋ができたため、小売業者が製造に進出することは自然の流れだったわけです。

後は販売ルートを確保するため、ひたすら店舗数を増やし、マーケティングを行っていくことになります。近年はネット販売によって販売ルートも変わりましたが……。

SPAモデルの拡大

初めてSPAをモデル化して大きくなった小売業者はGAPです。今ではGAPを1つのブランドと捉えて服を購入する人もいますが、元々GAPはサンフランシスコでデニムの小売業としてスタートし、様々な商品の仕入れ販売をしていました。今のライトオンやマルカワ、ジーンズメイトのようなイメージです。

ところが、1980年代に自社でデザインから製造、物流、販売までを自社で一貫して行うSPAにモデルチェンジすると、徐々にブランドイメージを高めて、全世界でのグループ売上が1兆5000億円を超える企業にまで成長しました。

その後SPAモデルはアパレル業界全体に広がり、スペインのZARA、スウェーデンのH&M、そして日本のユニクロが世界中で売上を伸ばしていくことになります。そう、つまりSPAとは「ファストファッション」に共通するビジネスモデルなんです。

ここで、今ユニクロで服を買っている30代後半以上の人に思い出して欲しいんですが、10-20代のころユニクロで服を買うことに抵抗はありませんでしたか(昔の話ですよ)?価格の安い服を着ることが恥ずかしいと思ってませんでしたか(昔の話ですよ)?

アパレル業界では、SPAを追求することで顧客ニーズに沿った売れ筋商品をいち早く回転できるだけでなく、売れ筋商品を分析して新しいシルエットやディテールを入れた服を小ロット生産して、独自色を出すことにも力を入れ始めました。

元々ファッショントレンドは、シーズンの2年前からいくつかの流れを経て結果的に決まっていくというお話をしましたが、各社がSPAに取り組むことで、トレンドのサイクルが短くなっていきました。

参考|スーツの流行の生まれ方は?ファッショントレンドの予測は可能?

つまり、そこそこ品質が良く、ある程度独自色のある今どきの服が、安価で買えるようになったことでユニクロのイメージも変わり、ファストファッションの需要も高まったわけです。

若者には高級なブランド服を着る一張羅という感覚が薄くなり、自分のニーズにマッチした安価な服を数枚で、うまく着まわす方が大切だと感じるようになりました。

これが現在のアパレル市場に求められているニーズやウォンツであり、このニーズ・ウォンツを満たすことができない企業やショップは、生き残ることがどんどん難しくなっています。

スーツ業界とSPAモデル

さて、ここでスーツ業界に話を移しましょう。

SPAを知っている人からすると、GAPやZARA、H&M、ユニクロなどのイメージが強いため、「SPA=ファストファッションブランドのビジネスモデル」と思うかもしれません。

ところが、前述した通りSPAはニーズが多様化した現代において売れ残りを作らない重要な販売戦略であり、カジュアルファッションと同様にシーズン需要があるスーツも売れ残りを作らない販売戦略が必要です。

そのため、今ではスーツを取り扱う総合スーパー、百貨店のPBブランドだけでなく、ツープライススーツショップ、スーツ量販店はSPAモデルが必須になり、さらにはセレクトショップまでもがSPAでビジネスを行うようになっています。

参考|初めてのスーツはどこで買う?スーツ取扱店の種類と値段の目安

「セレクトショップがSPAっておかしくない?」

セレクトショップは、元々はバイヤーの目利きでデザイナーズブランドや小規模メーカーから商品を買い付けて販売をする業態のため、SPAモデルを取り入れることで、目利きというショップ独自の個性がなくなることが懸念されます。

まぁこの件の賛否はまた別途お話しますが、スーツ(ジャケット)に関しては個人的にセレクトショップでもSPAが行いやすい環境があるのではないかと思います。それは、スーツに使うブランド生地の存在です。

スーツの価格は「生地」とテーラーリングなどの「仕立て」によって変わります。仕立ての良し悪しは詳しい人でなければパッと見で判断が付きませんが、生地は裏地のタグさえ見えれば良い生地かそれ以外かはわかります。

イタリアの「Ermenegildo Zegna(エルメネジルド・ゼニア)」や「Loro Piana(ロロ・ピアーナ)」を始めとする多くの一流生地を使用したジャケットには、その生地が使われている証として内ポケット下にタグが付けられます。


出典|Loro Piana ロロ・ピアーナ│名古屋 大須 オーダースーツ専門店 リングウッド

※上2つがゼニア、下がロロ・ピアーナ

生地直営店で購入すれば30-50万円する超高級スーツでも、生地さえ仕入れればセレクトショップの自社ブランドで、SHIPSのゼニア生地ジャケット、EDIFICEのロロ・ピアーナ生地スーツを10万円で販売することもできます。

これはセレクトショップに限りません。スーツのディテールも少しずつ変化しますし、10年単位でシルエットが大きく変わることがあります。そのためSPAで売れ筋を見極め、一段上質なスーツを求める人には、良い生地で商品を用意することが可能になるわけです。

SPAはスーツ取扱店の生き残りに必須?

前述した通り、SPAモデルはよく「製造小売」や「製造販売」と呼ばれます。「製造から販売まで一気通貫」というと何だか簡単な物言いに聞こえるかもしれませんが、SPAの流れの中には様々な技術と工夫が詰まっているわけです。

そのため、日々の売れ筋を把握して、短期間で顧客ニーズの分析・製造・販売のサイクルを作れない中規模以上のスーツ取扱店は、今後は市場から脱落していくかもしれません。

ただし、SPAモデルが万能なわけではありません。

SPAで顧客ニーズを分析すると売れ筋商品が中心になりますが、とくにスーツはカジュアルファッションと違い、ある程度素材とシルエットが決まっているため個性を出すことが難しくなります。

個性がなくなるとショップを選ぶ楽しみが減ってしまう……と言うのは昔の本来の意味でのセレクトショップ全盛期を知っている世代だから思うことなんでしょうか……。

一方で、SPAを取り入れられない小規模スーツ取扱店が追求するのは、1対1のホスピタリティ、または他にはないオリジナリティということになりますね。

そういう意味でも、カスタムスーツ(オーダースーツ)や老舗テーラーが脚光を浴びているのは理解できる流れです。

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