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May.14

1950年代日本ではIVY|アイビールックはどう理解されていたか

Written by伊藤進一郎

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ファッションスタイルに対する憧れ

1956年7月に発表された経済白書には、第二次世界大戦後の日本の復興が終了したとして「もはや”戦後”ではない」と記述され、これが当時の流行語になりました。

つまり、ここから日本はようやく前をむき出したわけです。いつの時代も前を向く原動力は若者です。その原動力とは欧米文化に対する憧れ、とりわけファッションスタイルや生活スタイルに対する憧れが、この時代の文化に色濃く現れています。

そのため、戦後日本のメンズファッションは、アイビールック(IVY Look)からスタートしたと言っても過言ではありません。

今当時のアイビールックを振り返ってみると、ある程度俯瞰して見ることができるため「アイビーとは◯◯である。」「アイビールックは◯◯が正解だ。」という言い方はできます。

参考|アイビールックとは?ジャケット・シャツなど定番アイテムの解説

では、これから大きなトレンドが起こると期待された1950年代後半当時は、アイビールックがどのようなものに見えていたのでしょうか。

日本メンズファッション協会(MFU)の発起人(ファッション十三人会)のひとり青江耿介氏は、当時のアイビールックについて「平凡」「男子専科」「男の流行」などのメンズファッション雑誌に多くの寄稿をしています。

今回は、1958年3月1日発刊の「男の流行」に寄稿された文章から引用して、アイビールックに対する理解を深めてみましょう。

※青江耿介氏の著作者人格権を尊重し引用していますが、現代でも読みやすくするために最小限の改編をしています。

ピークに至ったアイビースタイル

ユニバーシティアイビー
ユニバーシティアイビー

1950年代後半のアメリカファッションに圧倒的な影響を与えていたアイビースタイルは、日本の流行においても外すことができないスタイリングとなっていた。

純然たるアイビーリーグを「本格的アイビー」、この線を取り入れて甘くしたものを「改変アイビー」として説明してきたが、最近はアメリカでも「ウォータードダウンアイビー」や「バスターダイズドアイビー」という言葉が使われだしている。

ウォータードダウンアイビーとバスターダイズドアイビーとは

ウォータードダウンは水で割って薄くしたという意味であり、バスターダイズドは私生児のバスタードからきた純粋ではないという意味である。

改変アイビーとは、もはやあいまいではっきりしないほどアイビーの影響が強く一般にいきわたった結果である。言ってみれば大部分のスタイルがアイビーを改変したものとなってしまい、問題は純然たるアイビーかそれを水で割ったかというところへきてしまったのだ。

従ってオーセンティック(本格的)アイビーとウォータードダウンアイビーの両方が、アイビースタイルとして最も強い影響を及ぼしているのだが、それならば薄められたアイビーは本格的アイビーの過渡的なのかというと、決してそうではないとみている。

つまり改変アイビーは、一般的な流行が本格的アイビーへ進む中間産物として過渡的に現れたもので、本格的アイビーと共にやがては消え去るものかというと、決してそうではない。

もちろん流行はいつかは消え去る運命を持っているが、手っ取り早く言えば本格的アイビーへ行く手前のものではなく、むしろ本格的アイビーからでてきたもの、それよりも後の新しい傾向とみるのである。なぜならば、アイビースタイルはアメリカでも今がもっとも絶頂で、ピークに達したと見るのが様々な点からくる結論だからである。

アイビーの向かう先

本格的アイビーがいわゆるナチュラルルックの原点であることは、ドロップショルダーシルエットだけでも明らかで、自然なありのままの服装が極端に推し進められている。どんなスタイルでも極端に進められるということは「特徴が最も強調されること」であるから、必然的に劇的な表現となるのであり、アイビーリーグモデルの極度に狭い肩やダーツを入れない寸胴のウェストはナチュラルさの最も劇的な表現なのである。

ところが戦後の流行を大局的にみると、ボールドルックと呼ばれたシルエットの誇張された広い肩が、誇張をなくした肩に移り、ついにアイビーの狭い肩にまでなったわけで、ここにまでくると今度は狭い肩が劇的に強調されている。ボールドルックが広い肩の極点で最も劇的な表現であったように、アイビーも狭い肩の極点で、同様に劇的な表現なのである。

流行というものはこんな変遷でも、最終的によく咀嚼されたバランスに至るには、その前にもっとも明白な極点へ突っ走るのが常である。従ってアイビーはボールドルックの極点から振り子のように反対に突き進んだ極点のスタイルで、肩にパッドも入れなければ、胴にダーツも入れないとなれば、もはやこれ以上進みようがない。

こうみると次の段階はナチュラルさが劇的な誇張を清算して十分に咀嚼されたバランスを達成することであって、この動向がウォータードダウンの傾向とみるのである。ウォータードダウンが本格的アイビーへ進む手前のものではなく、反対にこれから出てきたものというのはこの意味で、本格的アイビーへ行く過渡的なものとするには、あまりにも時間的な経過がありすぎる。

つまり本格的アイビーが流行の本流となるものなら、もう今年あたりはそうなっても良いシーズンを既に経ている。初めてアイビーリーグモデルを紹介してからもう何年経つだろう。それにもかかわらず今シーズンになって、ウォータードダウンだのバスターダイズドだのを紹介するのは、これが新しい傾向だからであり、この点からもアイビーはピークに達していると言える。

これはまた新しい流行として別個に紹介した「シルケンタッチ」からも同様にくる結論であり、ナチュラルさが行き過ぎを是正して完成の途上にあるからこそ、エレガンスが目指されるのである。

生地の具合などが流行のポイントとして取り上げられるのは、スタイリングが十分にこなされたバランスに磨きがかけられるという段階に入るからで、さもなければ生地の具合やディテールなどデリケートな点よりも、もっと大きな”見せ”に流行のポイントが向けられるはずである。生地の質感やデザインの細部が流行のポイントとなるのは、どんなスタイルでもピークに達した時の現象で、この点からもアイビースタイルはピークに達したと言えるのである。

アメリカンナチュラルとラウンジモデル
アメリカンナチュラル(左)とラウンジモデル(右)

アイビースタイルの次の変化

では、次のステップがアイビーのウォータードダウンの傾向だとすれば、それは具体的にどういう形をとるのだろう。

いうまでもなく、まず極点まで到達した肩の線が劇的な表現を清算するはずである。そして寸胴なウェストの線も、自然な線に戻るはずである。現実に*この春はショルダーラインとウェストに微妙な変化が見え始めている。ミディアムスクエアショルダー(中角肩)とスクエアショルダー(角肩)がスタイルブックに現れ、一般的な流行型として進出してきたのだ。

複雑化するスクエアショルダー

但しこのミディアムスクエアショルダーとスクエアショルダーはアメリカの概念であって、欧州標準の認識とはだいぶ違う。アメリカではアイビーの劇的に表現された肩をナチュラルショルダーと表しているので、この劇的な強調を配した本当のナチュラルショルダーをミディアムスクエアショルダーといわざるを得ないのであり、このミディアムスクエアショルダーとほんの僅かしか程度の違わないものをスクエアショルダーとしているのであって、普通に言われるものとはかなり違うのである。

ここに掲げた挿絵を見てもらうと違いが良くわかると思うが、この程度のものは一般的に言えば、ナチュラルショルダーと言えるものだ。ミディアムスクエアショルダーは全くのナチュラルショルダーであり、スクエアショルダーはややスクエア気味にしたナチュラルショルダーである。

ミディアムスクエアショルダーとスクエアショルダー
ミディアムスクエアショルダー(左)とスクエアショルダー(右)

それにもかかわらずナチュラルショルダーが、ミディアムスクエアショルダーやスクエアショルダーと呼ばれるところに、アイビーの影響の強さを感じるのだが、それにしてもアイビーのナチュラルショルダーに対して明らかにミディアムスクエアショルダーやスクエアショルダーと銘打った肩が流行型として登場してきたことは劇的な強調が清算され始めた、つまりウォータードダウンの傾向と見て差し支えない。

ウェストは肩の線ほど変化が目立たない。これは着て楽なゆったりした服、つまりルーズフィットがアメリカでは絶対的な条件だからだが、それでもミディアムスクエアショルダーやスクエアショルダーには、フルチェストと呼ばれる型が出てきた。胸の部分にゆとりがあるわけで胸がフルになれば対照的に、ウェストにはそれだけ絞りが出ることになる。

スタイリングの傾向

背中をまっすぐに下ろしたストレートハンギングも*この春はやかましくいわれなくなり、むしろイージーウェストが代わりのように言われ始めているが、ウェストが楽ということは変な線でウェストの絞りを出すことに他ならない。

結局*この春のスタイリングの特徴としてフルチェスト、イージーウェストが出てきたことは、寸胴とは反対のアクセントが出始めたことだが、これをアクセントという消極的な表現をするのは、ナチュラルさを素直に出すだけで、それ以上に強い人工的なアクセントではないからなのである。つまりここにもまた劇的な表現をして、素直な自然さに向かう傾向が出てきている。

アイビースタイル
アイビースタイル

ボトムスは細めの傾向へ

ボトムスはスリムまたはトリムと形容される細いもの、これがアメリカや欧州などの全般的な傾向であるから、総じて細めという点は続いている。だが、極端に細いものやタイトパンツ類は傾きを見せ始めてきた。前にプリーツを取らずに後ろで締めるバックストラップ型がアイビーのボトムスとされているが、このプリーツなしはタイトパンツ同様、一種の激化であるため、プリーツをつけてバランスの取れた細さを出すというのが新しい方向として目立ち始めている。ここでも極端な行き過ぎが清算されて素直な表現が出てきている。

アイビーにおける「新しい動き」とは

結局全てが行き過ぎの自然さを清算して以前に戻り始めたことが「新しい動き」というわけで、依然としてアイビー傾向が変わらないためウォータードダウンという表現しかないわけだが、単に交代しただけでなく、感覚的な完成を目指している点に次への推移を暗示するものが含まれている。

現実にはまだまだアイビーの影響が強いし、この強力な影響も完成の過程もまだ数シーズンは間違いなく続く。だがアイビーにもいわゆるヤマが見えてきたことははっきり言え、後で詳しく触れるが特に我々にとっては重要な意味を持っている。

ブリティッシュモデル ボクシーライン
ブリティッシュモデル ボクシーライン

ファッションスタイルは多様化している

*現在アメリカで最も強い影響を及ぼしているアイビーと新しい動向を問題として取り上げたが、これら本格的なウォータードダウンアイビー以外に、いわゆるカリフォルニアスタイルや英国調スタイルと呼ばれるスタイルも依然として存在している。存在しているどころかアイビーのピークに至り、*今シーズンはむしろ勢いを盛り返した傾向さえある。

カリフォルニアスタイルと英国調スタイルの違い

カリフォルニアスタイルは東部のアイビーよりはボールドで、英国調はタイトスタイルが強いが、これらもアイビーの影響を受けて、*以前ほどボールドでもなければ、タイトにアクセントを出さない傾向にある。

例えば*今シーズン現れた”ブリティッシュモデュール”(モデュールとは標準の意)という型は肩幅がやや広くスクエアだが、決してタイトではなくボックス式な線を特徴としている。英国標準の型といってもタイトでなくルーズフィットで、アクセントの強くないところはアメリカ的なのだが、いわゆるアイビースタイルではない。

コスモポリタンとは

IACD(国際衣服デザイナー協会:International Associations of Clothing Designers/現 IACDE)の流行スタイル検討会議は、アメリカンナチュラルというミディアムスクエアの肩でイージーウェストの型、ユニバーシティと称するアイビー型、コスモポリンタンという英国調と欧州調の加味された型、これにダブルという4つのモデル(型)を一般的な流行としており、更にラウンジモデルやコンサバティブモデルを加える向きもある。

コスモポリタン
コスモポリタン

ラウンジモデルとは

ラウンジモデルとは、先に述べたフルチェストでアメリカンナチュラル型よりも一段とアイビーに遠い点でやや保守的、コンサバティブモデルは、スクエアの肩でもっとも保守的であり、アメリカンナチュラル型を以前に引き戻したことになる。だがアイビーがピークに達して、アメリカンナチュラルが既に述べたようにアイビー接近の傾向をとめて、ミディアムスクエアの肩、中絞りのウェストという傾向を示すと共に、極めて緩慢にして根強さを増してきている。

アメリカンナチュラルのダブルブレストスーツ
アメリカンナチュラルのダブルブレストスーツ

更にカリフォルニアスタイルや英国調スタイルはいよいよ複雑になってきている。ダブルにしてもナローラペルで打合せが浅く、ナチュラルショルダーの新しい型をモダンバージョン、欧州的な従来の型を保守調として、この2つの型に分かれてきている。モダンバージョンは、いわばアメリカ版ダブルで一応の近代感を持っているため、一つの型として変化しながら残っていくだろう。もちろん、従来のダブルも対照的な重厚味を買われる結果となり、両々あいまって進展することが予測される。

このようにシングルもダブルも型が多様になり、スタイリングの多様化が大きな特徴となってきている。従ってディティール(細部)も複雑になって、様々な扱いが現れている。

ラペルの傾向

例えばセミピークと呼ばれる小さな剣襟、これがアメリカ型のダブルだけでなくシングルにも使われている。ナチュラルショルダーと共にナローラペルがアメリカンスタイルの全般的な特徴で、これも今が絶頂と見られる細さに達しているが、ナローラペルには従来の剣襟よりも菱襟と剣襟の中間のようなセミピークのほうが調和する。しかも純然たるピークのように物々しくないところに感覚的な新しさがある。アメリカ人は欧州人と違って物々しく改まった感じが嫌いである。そこでシングルのピークラペルはアメリカではほとんど見られなかったが、セミピークならば物々しい感じがなく、今までにない新しさもある。

ピークラペルとセミピークラペル
ピークラペルとセミピークラペル

ベントの傾向

ベントは背中の真ん中に切り込むセンターベントが深くなると共にフックベントになったりしたが、最近は両脇に切り込むサイドベンツがスポーツジャケットばかりでなく、ダブルにも出てきている。しかもこれが相当に深く、脇ポケットの線と並行ぐらいに切り込んである。

流行のサイドベンツ
流行のサイドベンツ

カフスの新たなディティール

もう1つ新しいディティーリングは、スポーツジャケットにカフスがついている。これは以前からあったもので、アイデアとしては欧州から来ているためコスモポリタン柄に多く見られるが、袖口のボタンを1つにしてすっきりとした新しさを出している。

袖口のカフスはニートで新しい
袖口のカフスはニートで新しい

ポケットのラインとフラップの傾向

ポケットにフラップは一般的流行だが、スポーツジャケットにスランテッド(斜め)ポケットでフラップつきが新しい流行として出てきている。もちろん先端的な流行で一般的ではないが、*去年当たりの単なる代わり型の範囲を超えて多くなっている点が注目される。またフラップつきのチケットポケットも依然として続いているし、胸ポケットにフラップというのも数として数ないが見受けられる。

ボタンの流行は2つ?3つ?

シングルは3つボタンが2つボタンを凌駕して一般的流行の王座に上がってきている。*一昨年あたりとは全く逆で、圧倒的な優位にあった3つボタンと完全に入れ替わりつつある。この3つボタンの増大とアメリカ風なモダンバージョンのダブルの増加が目立ってきている。

色は質感に対し第二義的になった

色はミディアムトーンの明るい方向に向かっているが、チャコールトーンもグレーとブラウンは基本色であるからなしにはならない。*現在のところ明るいといっても手放しの明るさではなく、底にくすみのある明るさで、このくすみにチャコールトーンが尾を引いている。この春の色は普通よりも明るいグレーが人気の中心で、ブルー系が進出してきている。しかもナチュラルタンなど、タンとブラウンの茶系統も明るい調子になっている。ブルーももちろん明るい調子で、ライトネイビーからパウダートーンという粉っぽい感じの淡調まで広い幅で出てきている。

だがシルケンタッチの流行でもわかるように、色は質感に対して二義的という傾向が強まっているので、質感と結びついた柄が重要性を増している。特にオッドジャケットでは、チェックや縞などへ移りはじめてきた。これはチャコールトーンの反動で、実は消炭調のくすんだ地ではどんな柄も目立たないため、結局チャコールが柄を抑えていた結果になる。そこでその抑制から開放され、反動的に柄らしい柄に向かったわけだが、まず昔からある伝統的な柄(チェックでもグレンチェックなど)が最初に取り上げられることになる。伝統的な柄から始まって、それから創作的な柄へ向かうことが通例なのである。従って昔からある柄を新しい感覚で扱ったもの、グレンチェックの地へ光ったポツポツを置いてシルケンタッチとしたもの、こうした新味のあるクラシックな柄が*春の新しい流行となっている。

色と柄で最も重要な役割を果たすのはネクタイで、2つの基礎的な傾向が目立っている。1つは最近すっかり落ちてしまっていたが、極めてライトな色調が再び出てくる兆しを示している。もう1つは、背広など服装がライトな色調に向かいだしたため、これとの調和で深みのある色調、単純でなく豊かさというか豪奢(ごうしゃ)な複雑さを持った色調に向かう傾向である。つまり服装一般の明るくなる傾向に歩調を合わせて、極めてライトな色調で一層明るくするか、それとも深みのあるいわゆるコックリとした色調で服装の明るさを引き立てるかである。

そしてここでも生地の面白さが重要性を増してきて、豪華な感じの織り方が新しい流行となり始め、模様よりは質感の傾向が強く出てきている。そこで単純なデザインで地の織りを活かして、スペースを多くとった柄、つまりあっさりとした図案やスペースを大きく残した図案が新しい流行になろうとしている。いうまでもなくこれはシルケンタッチと同じ傾向からきているのである。

Vラインは終わったのか

次に欧州の全般的な傾向は、何より目立ったウェストになってきたこと。いわゆるVラインでは、完全にウェストが無視されてヒップをつけるという極端までいったが、*一昨年あたりをピークとして、次第にVラインから離れ始めてきた。そして*今年はウェストに目立ったアクセントを出して、Vラインから離れたのだが、大きく転換したわけではないためVライン的な名残は残っている。この点はアメリカのアイビー同様で、一時の行き過ぎを整調して伝統的な線に戻るという傾向を示している。

フランススタイル
フランススタイル

但しこの伝統的な線に、感覚的な新しさが盛られていることは言うまでもない。Vラインの1つの特性は、英国スタイルが本山であるタイトな傾向に対して欧州的な反発を示した点にあるため、この意味でアメリカのルーズフィットと具体的な現れ方は違うが、根本的な観念では相通じるものがあり、両者共に着て楽ということが目指されている。そこでこの点は従来どおり保たれながらも、ウェストを絞ってよりタイトにというのが最近の方向なのだ。よりタイトにすらりとした傾向であるため、今までのイージーなカットから離れて、伝統的なぴったりとしたシルエットに戻りだしてきた。

肩は自然な広さを保って僅かな傾斜が全般的な傾向だが、ウェストを絞ってヒップをピッタリとつけるディテールのため、相対的には肩幅が最も広い部分となる。それに僅かな傾斜がある丸肩傾向で、特にフランススタイルにこれがはっきりと出ているが、丸肩で広めの肩幅という点にVライン的なものが残っている。そしてすらりとしたシルエットとの調和から、上着の丈がやや短く(先端的な型は特に短い)、タイトな袖とズボンとの調和でラペルは細め、といっても長すぎないことが新しい特徴として現れている。ラペルは細めといってもあくまでも欧州標準より細めなので、アメリカに比べればまだまだ広い。

タウンウェアでもスポーツウェアでもベストは不可欠というのが欧州の着こなしで、特に*最近は上着とは別の生地のいわゆる変わりベストの傾向が強くなっている。ドレッシーな上着にはドレッシー、スポーティな上着にはスポーティな変わりベストで、この区別はもちろんはっきりしている。ズボンは上まで細く、フランススタイルなどでは靴の上の部分がやっと隠れる程度、いままでよりはやや短くなってきた。それと同時にタウンウェアでは、裾の折り返しなしがだいぶ出てきた。いずれもすらりとした効果を目指しているのである。

*:1958年当時を今として記述
青江耿介

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