スーツのマナーが悪いと悪目立ちする
「日本はマイナス評価の文化だ!粗が目立つと排除される。」
就活ではよくスーツの着こなし、服装による評価がされると言いますが、さすがに服装だけで合否を決めるような判断はされないはずです。
ただ、スーツを正しく着こなしていなければ目立ちます。みんながマナーを守って真剣に挑んでいる中では、服装で良い印象よりも悪い印象を与える人の方が数が少ない分、目立ってしまうわけです。
筆記試験とは違い、面接は絶対評価ではなく相対評価です。人間が判断するため、どうしても悪目立ちする人は印象が悪くなり、それが面接時の受け答えにも影響を及ぼします。
これを回避するためには、基本的なスーツの着こなしを心がけ、マナーを守って悪目立ちを防ぐしかありません。
そこで今回は、就活の面接で失敗しない、悪目立ちしないためのスーツの着こなしとマナーについてお話したいと思います。
リクルートスーツの基本的な着こなし
以下に細かいディテールのマナーも書きますが、基本的にスーツ専門店でリクルートスーツを求めている旨を伝えれば、問題なくクリアしてくれるものばかりです。
着こなし1.スーツの色・柄・生地など
リクルートスーツの選び方、とくに色・柄・生地で注意すべき点は以下にまとめてあります。
参考|リクルートスーツとビジネススーツの違いは?着回しはできる?
簡単に言うと色はダークネイビー、ダークグレー、(ブラック)、柄は無地がメイン、生地は価格によりますがウール100%のスーツは定価で6-7万円以上するため、化繊混の定価4-5万円のスーツを割引で2-3万円台で買えるのがベターだと思います。
着こなし2.ジャケットのシルエット
ジャケットのシルエットは、軽めの肩パッドが入ったベーシックライン(ナチュラルショルダー)が良いと思います。細身が流行っているからといって、クラシックな英国調に胴回りを絞りすぎたジャケットは尖ったイメージになるため控えた方が良いでしょう。
また、肩パッドや芯地がないアンコンジャケット(アンコンストラクテッドジャケット)は、自然に布地をまとったドレープ感が出てかっこいいのですが、シャープな印象は薄れてしまいます。
着こなし3.ジャケットのボタンの数
現在、ジャケットのフロントは2つボタンが主流ですが、段返り3つボタンでも問題ありません。段返り※がない3つボタンは最近見かけませんが、20年以上前の古い印象になります(1930年代の英国調やアイビーなども)。
※段返りとは、ジャケットの第1ボタンをラぺル裏に隠したボタン仕様のこと。段返り3つボタンは1900年以前にブルックスブラザーズが作り、それがイタリアに伝わったため、英国のクラシックなスタイルに段返り3つボタンはない。
参考|段返り3つボタンとは?2つボタン・3つボタンスーツの違いは?
袖ボタンの数は3つ、または4つがオーソドックスです。袖の作りも本切羽、開き見せのどちらでも良いですが、本切羽を強調するように端ボタンを開ける着方はカジュアルに映るため、しっかり留めた方が良いでしょう。
参考|本切羽と開き見せの違いは?スーツの袖ボタンは本切羽が良い?
着こなし4.フロントボタンの1番下は外す
ジャケットのボタンは2つボタンの場合は下段ボタンを外し(上1つ掛け)、3つボタンが段返りの場合は中段ボタンを留めて上下を外します(中1つ掛け)。これを「アンボタンマナー」と言います。
スーツは前開きの上段ボタン(中段ボタン)を頂点として、裾に向かって斜めにフロントカットが入っています。そのため、下段ボタンを留めると寄りシワができてしまいます。
参考|2つボタン3つボタンスーツでマナーが違う?1番下を開ける理由
着こなし5.フラップはポケットに入れる
リクルートスーツの腰ポケットは、フラップポケットが基本です。フラップポケットとは、角が丸い”雨ぶた”の付いたポケットのことです。
“雨ぶた”という名前通りフラップの役割は雨避け(ほこり避け)なので、屋外ではポケットからフラップを出し、屋内ではフラップを入れることがマナーになります。
ただし「出し入れが面倒で忘れそう……。」という人は、フラップを入れたままで良いでしょう。フラップを入れた方がフォーマルに近付きます。ちなみに、タキシードなどの礼服は屋外で着用しないため、フラップはついていません。
参考|スーツのフラップポケットとは?フタがある理由と使い方のマナー
着こなし6.ポケットに財布やスマホは入れない
スーツのポケットには基本的に物を入れない方がシルエットがきれいで、だらしなく見えません。就活生であればスーツとカバンはセットなので、財布やスマホなどの持ち物はカバンに入れましょう。
スーツのポケットに入れられる就活生の持ち物は、名刺入れ(内ポケット)、ペン(ペンポケット)、メモ帳(内ポケット)、ハンカチ(パンツ後ポケット)くらいでしょうか。
参考|スーツのポケットに何も入れないのは本当?財布やスマホの持ち運び方
着こなし7.パンツのシルエット
パンツはヒップサイズを合わせて、「ワタリ幅-膝幅=10-13cm程度」、「膝幅-裾幅=2-3cm程度」にするのが、現在の基本的なストレートシルエットです。
プリーツ(タック)はプレーンフロントの細身ストレート、またはシングルプリーツのレギュラーストレートが自然です。スポーツをしている人は腰回りに比べてお尻が大きいため、ウエストサイズで合わせたプレーンフロント(ノータック)だとお尻がきつくなり、シルエットが不格好になるので気をつけましょう。
参考|タック・プリーツ・ダーツの違いは?ワンタックパンツはダサい?
現在の裾のブレイク(クッション※)はハーフブレイクが基本で、ワンブレイクだと少し生地が余り気味、ノーブレイクが少しカジュアルになります。
※パンツの裾にできるクッションという言い方は日本独自のもので、本来はワンクッション→ワンブレイク、ハーフクッション→ハーフブレイク、ノークッション→ノーブレイクと言う。
裾上げは、フォーマル寄せならシングル(プレーンボトムス)が正解です。細身のスーツなら、シングルの方がよりフレッシュに見えます。
パンツの裾上げはダブルとシングルどっちが良い?幅の決まりは?
ワイシャツ(ドレスシャツ)の基本的な着こなし
着こなし1.シャツの色・柄・生地など
シャツの色は白が基本です。薄いブルーやピンストライプでも問題ないとする就活情報もありますが、白シャツは仕事以外にも使い回しが効きやすく、4-5枚あっても困りません。
生地はブロードまたはオックスフォードの平織で、ヘリンボーンなどの織柄は必要ありません。オックスフォードがカジュアルだとする情報もありますが、ワイシャツ用に仕立ててあれば違和感はないでしょう。
着こなし2.シャツのカラー
就活で使うシャツは基本のレギュラーカラー……と言いたいところですが、それでは面白くないためレギュラーを1枚、それ以外はセミワイドスプレッドをおすすめします。ワイドスプレッドも定番化していますが、大柄な体型の人が着た方が似合います。
ちなみに、レギュラーカラーの襟羽開き角度は75-90度、セミワイドは100度ほど、ワイドスプレッドは100-140度、ホリゾンタルは180度ほどです。角度が広いほどがっちり体型、角度が狭いほど細身体型の人に合います。
また、現在はアイビーの復権によりボタンダウンシャツが増えていますが、ボタンダウンはカジュアルとみられる可能性があるため、就活スタイルとしては避けた方が良いでしょう。
着こなし3.ジャケット袖口・襟口とシャツ出し
ジャケットの袖口や襟口からシャツがある程度見えていないと、ジャケットがブカブカに見え、だらしない印象を与えます。また、ダークスーツに対して、袖口・襟口から見える白いシャツはワンポイントになり、軽やかさを感じさせます。
シャツを着て腕を自然におろした状態で、袖口から1-1.5cm、襟口から1.5cmほどシャツが見える状態が一般的です。
また、襟口から2cm以上シャツが出ると襟高でイタリアンな着こなしになりますが、リクルートスーツは肩パッドがある程度入った英国調コンストラクティブ(構築的)が基本なので、少し違和感がありますね。
その他の基本的な着こなし
着こなし1.ネクタイの色・柄・生地など
ネクタイの色はネイビーが基本、他にも真面目さをアピールするならエンジ、ダークグレー、茶系など、爽やかに見せるならベージュや薄いブルーなどもありです。
柄は無地が基本、またはレジメンタルや小紋で、生地はシルクが一般的、大剣の太さはレギュラーの8-9cmぐらいが良いですね。
ネクタイとジャケットのラペルの太さを合わせるとバランスが良くなります。スーツトレンドは、ナローラペルからレギュラーラペルに戻りつつあるため、大剣の太さが7cm以下のナロータイを選ぶとバランスが良くありません。
着こなし2.ディンプルによるメリハリ
スーツスタイルの表情はVゾーンで決まります。中でもネクタイは存在感が大きいアイテムです。
ネクタイを結んだときにディンプル(くぼみ)を作ると、Vゾーンに立体感とメリハリが出てスマートに見えます。ディンプルは手軽にできるテクニックなので、ちょっと練習すれば誰でも簡単に作れます。
参考|ディンプルの意味や種類は?作りやすいネクタイと崩れにくい作り方
着こなし3.ネクタイはベルトに触れる長さ
ネクタイを使ったスタイルアップのテクニックはいくつかありますが、就活生は基本中の基本を覚えておけば良いでしょう。
それは、ネクタイを結んだときの大剣がベルトに触れるくらいの長さに調節することです。すると、ナチュラルウエストでボタンを留めた際に見えるベルトをネクタイが程良く隠してくれます。
ネクタイは長すぎても短すぎてもかっこ悪いため、慣れるまで結び方を練習しましょう。
着こなし4.ベルトと靴は黒
「ベルトと靴の色は合わせます。」とだけ聞くと「じゃあ両方茶色でもいい?」と言われそうですが、基本的にベルトと靴は黒にしましょう。
リクルートスーツの色は、ダークネイビー、ダークグレー、(ブラック)です。単純にグレーならベルトと靴が茶色でも違和感はありませんが、ダークカラーに茶色のベルトと靴を合わせるとそちらが目立ちます。
シャツやベスト、ネクタイの色使いで工夫できれば、ベルトと靴の色が違ってもバランスは取れますが、それはもう少しスーツスタイルに慣れてからのお話ですね。
着こなし5.ベルトは無地の革製
ベルトは身体の中心にあるため、ジャケットからちらっと覗くと目立ちやすいアイテムです。そのため、黒無地の革製で、傷みがないものにしましょう。ベルトや靴は革製が基本ですが、革は傷んでいると目立ちます。
また、ベルトの長さは往々にして長さ調整が必要ですが、調整するときは5穴ベルトの3穴(真ん中)にしてください。
着こなし6.靴下は黒のロングホーズ
革靴が黒なら、靴下は言うまでもなく黒のロングホーズです。靴下は基本的にパンツか靴の色に合わせますが、安定感を出すためには足元に黒の割合を増やした方が良いですね。
靴下の長さは、フットカバー、アンクレット、ソックス、クルーソックス、スリークォーターズ、ハイソックス……と続きますが、ロングホーズとはハイソックスのことです。
ロングホーズを履けば、ずり落ちた靴下を直す仕草が減ります。ただし、ロングホーズは近所に売っていない場合もあるため、早めにネット通販などで買うことをおすすめします。
参考|スーツに合わせるロングホーズとは?靴下の長さの種類と名称
着こなし7.靴はストレートチップかプレーントゥ
革靴は内羽根のストレートチップかプレーントゥが無難です。どちらもフォーマルシーンで使えて、使い回しが効く便利な靴です。その他の靴はカジュアルなイメージですね。ローファーはもってのほかです。
ちなみに、モンクストラップやタッセルでも問題ないという人もいますが(タッセルは弁護士の靴とも呼ばれる)、面接官が「ストレートチップかプレーントゥが基本だ!」と思っていると、ネガティブに目立つ可能性があります。
スーツの着こなしの基本とは
就活生に必要なスーツの着こなしやマナーについてざっとご紹介しましたが、細かいものを挙げるとまだまだたくさんあります。
さらに、スーツの着こなし以上に大切な身だしなみも考えなければいけません(詳細はまた別途)。あ、カバンや時計、傘など小物の話も必要ですね……(こちらも別途)。
スーツの着こなしにこれだけ気をつけるマナーがあると、やっぱり面倒で嫌になる人は多いと思います。ただ、よく見るとどれも基本的な考え方が根底にあります。
就活スタイルで大切なことは「清潔感があること」「協調性があること」、つまり悪目立ちをしないことです。さらに、スーツの基本的な着こなしは、「きれいなシルエットを作ること」「シワを作らないこと」という立ち居振る舞いのマナーを守ることです。
ファッションを楽しもうと考えると、つい身だしなみやマナーと個性の境界線を攻める着こなしをしたくなります。
ただ、スーツを楽しむのは社会人になって、周囲の環境を把握してからいくらでもできます。残念ながら、企業の面接官におしゃれを見せても、「おしゃれだなぁー。よし、合格!」とはなりません。
スーツの着こなしは、マナーも含めて基本が大切です。就活でスーツを着ることは、その基本を学ぶ絶好の機会でもあります。これからの人生でスーツを着る時間は長いため、守破離の「守」を今のうちに抑えておきましょう。
まずは常識を知り、基本を押さえ、そこから外しを覚え、自分なりの個性を出していく、これは日本に伝わる「守破離(しゅはり)」の考え方そのものではないでしょうか。何事も真似ぶ(学ぶ)ことが大切で、力をつけることでようやく個性が際立つものです。