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センタークリースがどれほど重要なのか
パンツに入ったセンタークリース(センタープレス)は、脚を長くスマートに見せるだけでなく、折り目で魅せるシャープなドレッシー感、立体感による奥行きを表現するとても大切なディテールです。
「たかだかパンツの折り目でしょ。そんなに気にしなくてもいいんじゃない?」
もちろん、センタークリースによる見た目の効果は高いのですが、それ以上にセンタークリースがあるかどうかは、スーツを着ている人の普段の生活態度までが透けて見える場合があります。
と言うのもセンタークリースは、スーツを着用した日に生地目につまったゴミを馬毛ブラシなどでさっと払い、ウールが吸収した水分が抜けるまで2-3日休ませ、一月に一回など定期的に当て布でアイロンがけをすると、きれいに維持することができるからです。
つまり、センタークリースがないパンツを履いている人は、男の戦闘服とも呼べるスーツのお手入れさえできないだらしない人だとみなされます。
とは言え、日々のお手入れがおろそかになるほど、仕事で疲れ切っている人もいるでしょう。スーツを休ませることができないほど、着回しが必要な人もいるでしょう。
そんな人のために、消えかかったセンタークリースを取れにくくする方法、またビシッと元に戻す方法があるよ!というのが前回までのお話でした。
参考|パンツのセンタープレス(クリース)は必要?折り目が消える理由は?
そこで今回は、センタークリースをお手軽に維持できるいくつかの特殊加工方法についてお話したいと思います。
特殊な加工が必要な理由は?
もちろん、毎日お手入れをして、定期的にアイロンがけなどをしていれば、センタークリースはビシッと保ちやすくなります。
ただ、自宅でのアイロンがけは地味に時間がかかりますし、慣れていなければ折り目が二重になったり、折り目がずれたりします。
また、アイロンプレスには折り目が付きやすい水分量と温度、プレスにかける最適な時間があるため、それらを考慮してきれいにセンタークリースを作るよりは、さっさとクリーニングに出してしまった方が楽だということもあります。
そこで、クリーニング店に通常のプレス加工をしてもらうわけですが、どれだけきれいにプレスをかけてもらっても、水に濡れるとセンタークリースはぼやけてしまいます。
たとえば、朝突然のどしゃ降りにあった場合、パンツは必ず濡れてしまいます。そんな日に限って、午後から大切な商談が入っていたら……ビシッときれいなセンタークリースを取り戻すのは至難の技です。
そのため、パンツが濡れてしまっても、乾けばセンタークリースが復活する「リントラク加工」や「シロセット加工」という特殊加工が必要になるわけです。
クリース加工方法1.リントラク加工
リントラク加工とは、パンツのクリース部分の裏から樹脂付けをして、折り目の形状を保つ加工のことです。水に濡れて繊維が膨らんでも、樹脂付けがある限り、乾かせば元の形に戻ります。
リントラク加工できるもの・できないもの
基本的には、ウールやコットンのパンツであればリントラク加工ができます。
一方、ベルベットやモヘアが含まれる製品や生地が薄い製品などは、樹脂が表面に出てくるため加工できません。また、生地自体が弱くなっている場合は、リントラク加工の効果が低くなる場合があります。
持続期間と料金
モノによりますが、リントラク加工の持続期間はワンシーズンから1年とされています。もちろん、濡れる機会が多ければこの限りではありません。
ただ、リントラク加工の料金は1000-2000円ほどです。仮にセンタークリースがワンシーズン保つとしたら、この金額は十分に価値があります。
クリース加工方法2.シロセット加工
シロセット加工とは、パンツのプリーツ部分に薬液を付けて、ウールの繊維を折り曲げた状態で結合することでパーマのように癖を付け、形状を保つ加工のことです。
こちらもリントラク加工同様、水に濡れて繊維が膨らんでも、乾くと元の形(折り目が付いた形状)に戻ります。
シロセット加工できるもの・できないもの
シロセット加工は、主にウール製品が加工対象です。ウール以外の製品、またはウール混率が低い製品はシロセット加工の対象になりません。
ウール混率10%以上がシロセット加工の対象と言われますが、割合が低いほど効果も低くなります。そのため、一般的なクリーニング店では、ウール混50%以上でなければ受けてくれない場合があります。ちなみに、日本のスーツの約8割がシロセット加工の対象になるそうです。
持続期間と料金
こちらもリントラク加工同様、持続期間はワンシーズンから1年とされています。シロセット加工の料金も1000-2000円ほどです。
特殊加工とともに日々のケアも大切
さすがに、普段スーツを着て仕事をする人で、「センタークリースなんて必要ない。」と考えている人はほとんどいないと思います。
ただ、センタークリースが消えにくい特殊加工の存在を知らない人は多いでしょう。
今までアイロンがけをしたり、ズボンプレッサーを使ったり、単純に何度もクリーニングに出していた人にとって、たった1000-2000円でしばらくセンタークリースの心配がいらなくなることは大きなインパクトです。
さて、ここで勘違いしてはいけないことは、いくら特殊加工をしてもらっても日々のスーツのケアが必要なくなるわけではないということ。
これらの特殊加工は、あくまでも”生地の加工”であって、”生地の復活”ではありません。スーツは何もしなくても日々傷み続けるものですし、クリーニングや特殊加工によっても傷んでいくんです。
日々のケアとは、アイロンがけではなく、たった数分のブラッシングと陰干しです。ブラッシングである程度のホコリを落とすと、ウールの風通しが良くなります。風通しが良くなると繊維が早く乾燥するため、繊維のほつれも抑えられ、スーツが長持ちします。
もちろん、ブラッシングにも正しいやり方・コツはありますが、1度覚えれば後は毎日繰り返すだけ。歯磨きのように当たり前になれば、面倒ではありません。陰干しも同様です。
「え?でも今着てるスーツってイ◯ンで買った1万円のスーツだし、毎日ケアするのは面倒くさいんだけど。」
この感覚は絶対にダメです。たしかに、スーツとしては安い金額かもしれませんが、1万円ですよ?半年しか保たないスーツがケアによって、2年保つかもしれないんですよ?
スーツのケアは日々の習慣付けが大切です。安いスーツのうちから身体に染み込ませなければ、将来高いスーツを買っても結局ケアを怠ってしまいます。もちろん、誰もが必要になる礼服は1万円では買えません。
というわけで、スーツのケアでもっとも大切な日々のブラッシングと陰干しについては、また別途お話したいと思います。