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スーツの襟にあるボタン穴には何を入れる?
今手持ちのジャケット(スーツ)の左ラペル(下襟)をちらっと見てください。ボタン穴、もしくはボタン穴のような縫い目がありますよね。
このボタン穴、または縫い目のことを「フラワーホール(flower hole)」と言います。バッジホールやラペルホール、ブートニエール、また単純にボタンホールと言う場合もあります。
「え?そんな穴はない?」ない場合は理由も後で説明しますが、本来スーツやブレザーのラペルにはフラワーホールがついているものなんです。
でも、フラワーホールを使ったことがない人もいるでしょう。というより、フラワーホール(の場所)は以下のように種類が分かれるため、万人が一様に使わなくても問題がない穴なんです。
- フラワーホールがそもそもない
- フラワーホールはあるけど穴かがり(縫い跡)だけ
- フラワーホールがある(穴もある)
- フラワーホールはあるけど穴は一部だけ
→穴は右、左、真ん中のどこか
では、フラワーホールは一体どんな由来で何のために存在し、なぜ上記のように種類がバラバラなんでしょうか。
今回は、ジャケット(スーツ)の襟にある不思議なフラワーホールについてお話します。
フラワーホールの位置
フラワーホールがある前提で話をすすめますが、まずフラワーホールの位置はラペルにあると決まっています。ただし、スーツの形やラペルの形によって、位置が多少変わる場合があります。
シングルブレストの場合
シングルブレストのジャケットには、前述した通り左ラペルにフラワーホールがあります。通常右側にボタンがあることから、対となるボタン穴が左側にあると考えてください。ただしシングルブレストでも、ピークドラペルの場合は左右両方にフラワーホールが付いている場合もあります。
ダブルブレストの場合
以前は、ダブルブレストのジャケットには、左右両方のラペルにフラワーホールがありました。これは、左右の襟を拝み合わせでボタンを留める名残で、カフリンクスのイメージです。ただ、現在はダブルブレストでも左ラペルだけにフラワーホールがついたジャケットが増えました。
参考|シングルとダブルの違いは?スーツの格式や年齢、体型など注意点
フラワーホールの由来
由来1.花を挿す穴として
フラワーホール(flower hole)は、直訳すると「花の穴」です。結婚式で新郎が着るスーツやタキシードの襟部分に、花を飾っている姿を見たことがあると思います。あの花はこのフラワーホールに挿しています。
当時のイギリス皇太子エドワード8世(1894年-1972年)がフラワーホールに花を挿したことが始まりという説もありますが、実際は19世紀から貴族の間でフラワーホールに花を挿してパーティーに出席する嗜みが流行っていたようです。
また、このころからラペル裏に花の茎を通す「フラワーループ(flower loop)」という糸が付けられるようになりました。今でもスーツをカスタムメイド(オーダー)するとフラワーループを付けてくれる仕立て屋もあります。
ちなみに、花は招待をするホスト側が、出席者(ゲスト)に感謝の気持ちを表すために飾るものなので、出席者は花を挿しません。
由来2.風よけの第一ボタンの名残
では、花を挿すためにわざわざジャケットにフラワーホールを付けたかというとそうではありません。もともとフラワーホールは、ジャケットの第一ボタンの名残として残っていたものです。
以前にお話した通り、スーツの起源はフロックコートであり、遡ると軍服や騎士のゴルジェになります。当時は戦争になると、軍人は軍服を着て馬に乗っていましたが、襟は首元を守るだけでなく防寒対策として襟高な様相でした。
参考|襟と衿の違いは?ジャケットのカラー・ラペルに使う漢字はどっち?
つまり、現在のコートのように襟を立ててボタンで留めていたものが、テーラードカラーを用いたジャケットの形になり、その際にボタンホールだけが残ったものなんです。
現在のフラワーホールの役割
フラワーホールの由来を知る限り、わたしたちが仕事で使うスーツにはフラワーホールは必要ない気がします。では、現在のフラワーホールには、花を挿す役割しかないのでしょうか。
役割1.社章を付ける
現在最もフラワーホールが使われているのは、社章などのバッジを取り付けるためでしょう。社章の留め具はネジ式、または針式が多いため、フラワーホールを使えば、スーツを傷つけることなく見やすい位置に社章を留めることができます。
そのため、フラワーホールを「バッジホール」と呼ぶ方が違和感がない人もいるでしょう。
役割2.Vゾーン周辺を飾るため
ジャケットの襟周り、シャツの襟、ネクタイなどジャケットスタイルで最も目立つVゾーンを華やかにするために、フラワーホールに彩りを加えることがあります。
フラワーホールを飾る方法は以下のようにいくつかありますが、それぞれ詳細はまた別途お話します。ただし、これらはあくまでも飾りのため、結婚式やパーティーなどふさわしい場所でのみ使うようにしましょう。もちろん、ある程度のマナーもあります。
- ラペルピン(タックピン)
- ブートニエール(メンズブローチ)
- 生花or造花(これは前述の通り)
役割3.フラワーホール自体が飾り
フラワーホールは、それ自体がスーツに馴染んで飾りの役割を果たしています。そのため、一般的なジャケットにフラワーホールがないと、少し寂しい印象になってしまいます。
カジュアルジャケット(スポーツジャケット)にはフラワーホールがない場合がありますが、スーツジャケットよりも素材の存在感があったり、変形ラペルやポケットの仕様など、初めからカジュアルダウンされたディテールを持っています。
また、そもそもカジュアルジャケットとスーツとの着こなしには違いがあります。そのため、カジュアルジャケットにフラワーホールがなくても違和感はありません。逆に言うと、シンプルなスーツほど顔の近くのディテールは存在感が大きくなります。
参考|スーツの上着はジャケパンに使える?ジャケットに必要な条件
フワラーホールがない理由・穴が一部だけの理由
冒頭でお話した通り、ジャケットのフワラーホール(の場所)には以下の種類があります。
- フラワーホールがそもそもない
- フラワーホールはあるけど穴かがり(縫い跡)だけ
- フラワーホールがある(穴もある)
- フラワーホールはあるけど穴は一部だけ
→穴は右、左、真ん中のどこか
実際に作ったことはないので感覚はわかりませんが、フラワーホールを作るには、穴の周囲をしっかり縫ってから穴を開ける工程が必要で、コストがかかります。
そもそもフラワーホールがないことが最もコストが安く、次に穴を開けずに縫っただけがコストが安くなります。そのため、フラワーホールに穴の開いていないスーツがあったり、一部フラワーホールがないスーツもあるのです。
また、フラワーホールの穴が一部だけのものは、バッジホールとしての役割を重視しています。社章は細いピンを通して留め具をはめるため、フラワーホール全体に穴が開いていると社章を落とす可能性があります。穴の位置(右、左、真ん中)はその会社(縫製工場)のルールなのだと思います。
フラワーホールに対して、「この穴何のためについてるの?使わないんだったらいらないじゃん。」と思っていた人は、少しは見方が変わったでしょうか。
一部既成スーツを含め、カスタムメイド(オーダー)のスーツの場合、フラワーホールの糸の色を変えておしゃれを楽しんだり、機械縫いではなく穴かがりを手縫いにして独特の味わいを出すこともできます。
些細なディテールだと思うかも知れませんが、前述した通り顔周りはちょっとしたことで印象が変わるため、思っているよりも目立ちます。そのため、やりすぎには十分注意しましょう(わたしも昔かがり糸の色を赤にして失敗しました……)。