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スーツの着こなしが難しい理由は
「スーツって堅苦しいから好きじゃないんだよなぁ。冠婚葬祭とか、仕事とか、ちょっとしたパーティとか使う場所は多いし、それなりに着こなしのマナーもあるし……。」
20代の頃は意識せずに”仕事着”として着ているスーツですが、年齢を重ねると仕事以外でスーツの着用機会が増えることを実感します。しかも出席場所による着こなしのマナーを意識すると、堅苦しさと相まって面倒臭さを感じる人も少なくありません。
でも、本当にきっちりとした着こなしのマナーが必要なのは冠婚葬祭や式典のみです。元々スーツは堅苦しく着るものではなく、カジュアルスタイルのために進化した服装なんです。
スーツが現在の形になったのはイギリス帝国ヴィクトリア朝の1850-1860年ごろで、それまで主流で堅苦しかったフロックコートやモーニングから徐々にカジュアルなラウンジスーツ(現在の意味におけるビジネススーツ)に変化し、好まれるようになっていきました。
堅苦しいと感じる人も多いスーツですが、当初は気軽に着こなすためのカジュアルスタイルだったわけです。
今現在スーツの着こなしが難しいと感じる人は、スーツを複雑なものと捉えているかもしれません。
スーツには「フォーマルウェア」「タウンウェア(ビジネスウェア)」「カントリーウェア」の3つ(4つ)の用途しかなく、それらが区別できれば難しさや堅苦しさから開放されるはずです。
そこで今回は、それぞれの用途で着用するフォーマル・タウン・カントリーのスーツの違いについてお話したいと思います。
フォーマルウェア(フォーマルスーツ)とは
フォーマルウェア(フォーマルスーツ)とは、冠婚葬祭など国や地域の慣習に基づいて着用する形式を重んじた洋装の礼服を言います。
フォーマルには「正礼装(せいれいそう)」「準礼装(じゅんれいそう)」「略礼装(りゃくれいそう)」という3つの格式があり、以下のように服装が異なります。
- 正礼装(モーストフォーマル)
- 昼|モーニングコート、夜|燕尾服(テールコート)
- 準礼装(セミフォーマル)
- 昼|ディレクターズスーツ(ベストノアール)、夜|タキシード
- 略礼装(インフォーマル)
- ブラックスーツ、ダークスーツ※
※ダークスーツとはチャコールグレイやダークネイビーのスーツのこと。欧米ではダークスーツというと略礼服を意味する。
「ブラックフォーマル」という言葉もよく聞きますが、これはブラックスーツのことではなく正礼装、準礼装、略礼装の洋装の総称のことです。また、ブラックフォーマルと対の「カラーフォーマル」とは、主にダークスーツや光沢感があるブラックスーツのことで、パーティなどのイベントで使われます。
ちなみに、和装のフォーマルは紋付・袴などが形式を重んじた礼服になります。
タウンウェア(タウンスーツ)とは
タウンウェア(タウンスーツ)とは、形式を重んじたフォーマルウェアに対して、仕事で着たり、ホテルで食事をするなどの外出時に着用するスーツという位置付けです。
フォーマルウェアほどデザインの制限も厳格ではないため、色はダークグレイやダークネイビーからベージュ、ブラウンなど明るいカラフルなものまでを含み、柄もストライプからチェックまでなど、ある程度カジュアルダウンしたスーツスタイルになります。
ビジネスウェアとタウンウェアは違う?
ビジネスウェアとタウンウェアは分けて考える場合もありますが、近年のビジネスシーンにおけるスーツスタイルはある程度自由度があるため、服装に厳しい企業でない限り「タウンウェア=ビジネスウェア」と言えるほど近いもです。
ちなみにビジネスウェアとは、無地またはストライプのダークスーツに白ベースのドレスシャツ(またはサックスブルーなど)、ストレートチップやプレーントゥなど黒やこげ茶の革靴を合わせることが一般的です。
あえてビジネスウェアとタウンウェアを分けるとすると、ビジネスウェアはフォーマルウェアとタウンウェアの中間の位置付けになります。
タウンウェアは、仕事から夜の遊びまで使える「かっこいい大人の服装」というイメージですね。
カントリーウェア(カントリースーツ)とは
カントリーウェア(カントリースーツ)とは、タウンスーツをさらにカジュアルダウンした普段着、散歩着、部屋着などのリラックスできるスーツという位置付けです。
タウンウェア(ビジネスウェア)に比べてデザインもラフなため、夏はコットンやリネン、冬はツイードやニットなどの動きやすい素材が使われますし、色・柄とも場に即していればとくに決まりはありません。
ショールカラーやスタンドカラーなどディテールの違いを楽しむだけでなく、サファリジャケットやハンティングジャケット、ノーフォークジャケットなどにパンツを合わせて、テーラードジャケットとはシルエットが異なるセパレートスタイル(ジャケパンスタイル)を作る場合もあります。
「普段着、部屋着なのにスーツって言われても、あんまりピンとこない……。」
まぁ、普通はそう思いますよね。でもこのようなスーツの使い分けは、1960年代頃までの日本の方がイメージが容易でした。
現在、和服というと特別なときに着る服のイメージですが、当時の夏の家着は浴衣や甚平、冬の家着は一般的な家庭用の着物を着ていました。
“サザエさん”の波平さんは、仕事に行くときはスーツにソフト帽、家にいるときは着物(着流し)、ご近所へは羽織という格好です。フネさんも家にいるときは質素な小紋の着物に割烹着ですが、外出時は場所に合わせて訪問着か色留袖を着ています(ワンピースもあったかな)。
もちろんこの2人が礼服を着る際は、波平さんが紋付きでフネさんが黒留袖になるのでしょう(燕尾服の波平さんも見たことあるような……)。
日本の和服と英国のスーツの使い分けは同じ
着こなしが難しいと感じるスーツも、フォーマル・タウン(ビジネス)・カントリーの3つを使い分ければ良いだけで、そう考えると難しいものではありません。
現代は普段着として和服を着ることは少なくなりましたが、前述した波平さんとフネさんのように、昔の日本ではシーン別に和服の使い分けが当たり前でした。そんな和服と同じで、西洋のスーツにもシーン別の着こなしがあるということです。
実際に、1950-60年代の雑誌の記事を見ても、シーン別のスーツの着こなしは、現在よりも盛んに言われていました。
参考|1950年代ビジネスウェアとアーバン・サバーバンウェアとの違い
時代によって服装は常に変わるものですが、そんな中でスーツが着続けられている理由は、以前話した通り西洋に慣習や権威の象徴としてのスーツスタイルの意識が残っているためです。
スーツを着る理由1.慣習で正装とされているため
スーツを着る理由2.元々が軍服だったため
スーツを着る理由3.身分の違いを明らかにするため
世界的にスーツが廃れない限り、今後も日本ではスーツが着続けられます。そのため、着こなしが難しいとは思わずに、自然な発想でフォーマルスーツ(フォーマルウェア)・タウンスーツ(ビジネススーツ)・カントリースーツがあることを理解しましょう。
これが理解できれば、これまでよりもスーツの着こなしが楽に思えるはずです。最後に少しまとめを。
- フォーマルウェア(スーツ)
- 冠婚葬祭などで着用する形式を重んじた洋装の礼服のことで、正礼装、準礼装、略礼装という3つの格式で服装が異なる。デザインや色は格式によって厳格に決められている。
- タウンウェア(スーツ)
- 仕事やホテルでの食事など外出用のスーツのことで、デザインもフォーマルのように厳格ではなく、ダーク系以外にベージュ、ブラウンなど明るい色、柄もストライプからチェックなどカジュアルダウンしている。現在のビジネスウェアは、ほぼタウンウェアと言って良い。
- カントリーウェア(スーツ)
- タウンスーツよりもリラックスした普段着のスーツで、デザインもラフなため、夏はコットンやリネン、冬はツイードやニットなどの動きやすい素材、色・柄もとくに決まりはない。