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スーツは何着持ってる?
「みなさんは、スーツを何着持っていますか。」と聞くと、「(春)夏スーツが◯着で、(秋)冬スーツが◯着かな。」と答えますね。これは、春夏と秋冬でスーツが2種類あると認識しているということです。
一般的に、春夏スーツと秋冬スーツは裏地・生地・重さ・色味に違いがありますが、その中でもジャケットの裏地の有無は季節を感じられる特徴的なディテールです。
このジャケットの裏地の有無のことを「総裏(総裏地)」「背抜き」と言い、最近は春夏だけでなく秋口(場合によっては冬)まで背抜きしたスーツ(オールシーズンスーツなど)も見かけます。
参考|春夏スーツ・秋冬スーツ・オールシーズンスーツの違いと見分け方
実はスーツの裏地は総裏が基本で、海外では背抜きは多くありません。海外ブランドのスーツも日本に輸出する際は、背抜き仕様のスーツをわざわざ仕立てるほどです。背抜きは、日本の夏のジメジメした気候やスーツに対する独特の考え方によって広がったものなのでしょう。
では、なぜスーツの裏地は総裏が基本なのでしょうか--。そこには、裏地仕様による寒暖対策以外の理由があります。
今回は、スーツに裏地がある理由、裏地が付いているメリット・デメリットについてお話したいと思います。
背抜きと総裏の違い
まずは簡単にスーツの裏地の背抜き仕様と総裏(総裏地)仕様の違い説明しておきましょう。
背抜き(せぬき)とは
背抜きとは、スーツジャケットの裏地をすべて省いて(肩周辺のみ残す)仕立てた仕様を言います。
スーツを背抜き仕様にするメリットは、背中の通気性を良くして涼しさを感じるというものです。さらに背抜き部分に光が当たって布地が透けるため、透け感が見た目の涼やかさも演出します※。
※基本的に女性の装いと違い、男性の装いには透け感を出さない方が良いとされている。
また、背抜きをすることでスーツが軽くなります。一般的なメンズジャケットは500-600gほどあるため(200gmsの生地を3mとした場合)、少しでも軽い方が身体への負担も軽減します。
総裏(そううら)とは
総裏とは、スーツジャケットの前見頃から後身頃にかけて裏地が付いた仕様を言います。
スーツを総裏仕様にするメリットは、裏地を付けることで保温性・保湿性を高め、寒い日でも暖かく過ごせることです。
また、裏地には「汚れや傷から表生地を守る」「滑りやすくする」「見た目を良くする」などの役割があります。1つずつ役割を見ていきましょう。
ジャケットに裏地がある理由
理由1.汚れや傷から表生地を守るため
スーツのジャケットに裏地がある1番の理由は、傷みや汚れから表生地を守るためです。
表生地は擦れて繊維が潰れたり、湿気で広がったウールの目地に汚れが入り込むことで平らになりテカリが出ますが、裏地があることで表生地へのダメージを軽減することができます。
ちなみに、ジャケットを脱いで表向きに2つ折りでイスなどにかける人がいますが、これは間違いです。ジャケットに裏地がついている場合は、裏側に折り返してかけた方が表生地が傷みにくくなります。
理由2.滑りやすくするため
裏地の素材はキュプラやポリエステル、レーヨンなどですが、これらの素材はツルッとしていて摩擦に強く、静電気が起きにくい素材です。
ジャケットは、裏地があることで着脱の際に生地を傷みにくくするだけでなく、着脱を滑らかにしてストレスを感じさせない効果があります。
着脱で擦れたときのダメージは、ジャケットの脇や袖口が最初に傷んでくることからもよく分かるはずです。
理由3.水分の吸収・発散のため
スーツジャケットの裏地に使われるキュプラは、コットンを加工した合成繊維で、制電性の他に吸湿性・放湿性に優れています。
そのため、裏地があることで蒸れを軽減して表生地の繊維を守るだけでなく、不快感を軽減することにも役立ちます。
理由4.見た目を良くするため
スーツジャケットは、裏地が付いていることできれいなシルエットを作ることにも役立っています。
背抜き仕様のジャケットは背中がペラペラで薄いため、後ろからの見た目がどうしても安っぽく見えてしまいます。最近バックシャン※という言葉をよく聞きますが、女性だけでなく男性も後ろ姿には色気が滲み出るもの。
※元々は後ろ姿美人で前から見ると……という意味だが、最近は後ろ姿がきれいに見える肯定的な意味で使われる。
全体的な重さは暑さを感じたり、身体の負担につながりますが、その分見た目がかっちりします。フォーマルスーツに重厚感を感じるのは、シルエットや色だけでなく実際に重いためです。
スーツは背抜き・総裏どっちが良い?
スーツの裏地の仕様は総裏が基本……たしかにスーツスタイルにしろ、ジャケパンスタイルにしろ、整ったシルエットと重厚感がある方が見た目も良いですし、”着こなしている感”は出やすいものです。
スーツを着こなしていると仕事に気持ちも入りやすいですし、わたし自身人と会って話をするときの自信につながります。さらに、裏地が付いていることでスーツの劣化対策にもなるなら、「やっぱり夏でも総裏が正解なのかな?」と思うかもしれません。
ただし、日本の夏に限っては総裏が正解とは言いづらい面もあります。
それは暑さだけでなく、ジメジメした湿気の存在です。いくら裏地が吸湿性・放湿性に優れていると言っても限度があり、真夏は裏地の機能以上に湿度が高くなってしまいます。
日本の高温多湿な気候では湿気による繊維の劣化が早く、生地の質が良い(ウールの繊維が細い)スーツほどコスパが悪いと言われています。
わたしもスーツを着るときはなるべく総裏仕様を選びますが、6-8月だけは暑さと湿気のため背抜き仕様です(クールビズは一般的に5-9月)。つまり、1年のうち3シーズンが総裏、1シーズンが背抜きという着方です。
総裏でもコットンやリネン素材にすれば見た目にも涼しげですが、個人的に質感があまり好きじゃない……。こればっかりは、個人の好みの問題ですね。
というわけで、真夏のジャケットは涼しげな生地素材で問題なければ総裏、生地関係なく暑さや湿気に我慢できない人は背抜きがおすすめです。
スーツの選び方はスーツを着る環境(働く環境)にもよるので、裏地の有無と表生地の組み合わせは色々と試してみてください。