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夏の半袖シャツの残念な着こなし
「さて、そろそろ気温も上がってきたから、半袖の”ワイシャツ”見に行かなきゃな。」
クールビズと言えば、環境省が提唱した「ノージャケット、ノーネクタイ」がキャッチフレーズですが、同じくらい半袖シャツの着用を意識するビジネスマンも多いと思います。
夏になると半袖シャツにノータイスタイルはもちろん、半袖シャツをタイドアップ(ネクタイ着用)で着たり、半袖シャツの上にスーツジャケットを羽織ったりなど、街中では多くの日本人が半袖シャツを着ている姿を見かけます。
わたしは、パンツ(トラウザーズ)に半袖シャツを合わせることも、半袖シャツをタイドアップすることもダメだとは思いません。
ただ、パンツにドレッシーでアイロンがパリッとかかった”半袖のワイシャツ”(?)を合わせてネクタイを締める人、さらにはそこにスーツジャケットを羽織る人を見ると、「あぁー……。」と残念な気持ちになります。
「またマナーの話?」と思うかもしれませんが、マナー云々の前にかっこ悪いんです……。
参考|クールビズがおしゃれにならない原因は?スーツの間違った着こなし
このような中途半端なスーツスタイルをしてしまうのは、年中服装に振り回されている日本人と機能的なら何でもOKというアメリカ人くらいでしょう。
では、夏のビジネススタイルに半袖シャツを合わせてはいけないのでしょうか。また、クールビズで着られるおすすめシャツは何でしょうか。
半袖シャツがダメなわけじゃない
勘違いしている人もいますが、ビジネスの場で半袖シャツを着るのはマナー違反ではありません。
なぜなら、世界中がイギリスのように年間温度差が少ない気候でもなければ、ナポリのように温暖低湿の爽やかな気候ではないためです。
たとえば、一時期話題になった沖縄のクールビズ「かりゆしウェア」というスタイル。
「仕事なのにかりゆしなんてとんでもない!ビジネスマンならワイシャツ着なきゃ!」と批判する人もいますが、まさか沖縄のビジネスマンが北欧に出張に行っても、かりゆしを着ているなんて思ってないですよね?
また、英国のビジネスマンが日本よりも高温多湿な東南アジアに行っても、「スーツを着るのが伝統的なマナーだ。」と振れまわっているなんて思ってないですよね?
以前もお話しましたが、スーツとは完成されたスタイルです。そのため、スーツを着る場合は色柄やディテールでカジュアルポイントを作っても、着崩しでだらしないカジュアルにしてはいけません。
- スーツとは
- 1枚の共布で作られたテーラードカラー仕様のトップスとベスト、ボトムスからなる一揃いの衣服のこと
- スーツスタイルとは
- スーツに長袖のドレスシャツとネクタイ、革ベルト(サスペンダー)、革靴を合わせた着こなしのこと
わたしたちビジネスマンが考慮すべき点は、時間・場所・人・場面に応じて、適切な服装をすることです。TPPO(Time/Place/Person/Occasion)に合っていなければ、無理をしてスーツを着ても、人を不快にさせる場合があると認識しなければいけません。
たとえば東南アジアでは、長袖のドレスシャツにタイドアップしてジャケットを着込むよりも、現地の気候・スタイルに合ったノータイ・ノージャケットで半袖シャツとスラックスを合わせた方が見る人が不快にならず、仕事の雰囲気を醸し出せるわけです。
ワイシャツとカジュアルシャツの違い
とは言え、半袖シャツなら何でも良いわけではありません。クールビズで半袖シャツを着てダサくなってしまう人は、着ている半袖シャツの認識やシャツの着方が間違っています。
半袖シャツをかっこよく着こなせる人は、初めからカジュアルにも着こなせる半袖シャツを意識していますが、ダサくなってしまう人はとりあえず半袖にカットされただけのワイシャツを着ています。
ワイシャツとカジュアルシャツの違いは明確ではありませんが、主に襟の作り、裾の作り、素材、襟の形、色柄、フロントボタン、カフス型と袖の長さ、胸ポケットなどの複合要素から、ドレス寄り・カジュアル寄りを認識して使い分ける必要があります。
参考|ワイシャツとカジュアルシャツの違いは?着こなしに違いはある?
日本の、とくに総合スーパーなどでクールビズ時期に大量に売り出される”半袖ワイシャツ”は、ワイシャツの袖が単純にカットされただけのものが並んでいます。
ワイシャツとカジュアルシャツに違いがあるように、本来、半袖シャツと長袖シャツにも違いがあります。半袖で着るからこそ、気をつけなければ途端にダサくなってしまうポイントがいくつもあるわけです。
実際に、半袖シャツをかっこよく着るポイントを押さえておきましょう。
半袖シャツを選ぶポイント
できるだけワイシャツに近いシャツを着なければいけない場合、具体的にどのような半袖シャツを着れば良いのでしょう。
とてもわかりやすく良い例があります。このシャツは、デッコーロウォモ(decollouomo)という日本ブランドのシャツです。お値段は2万円弱なので、服に興味がない人には少々高額かもしれません……。
デッコーロウォモのシャツと正反対なポイントを持つシャツが以下のシャツです。1つずつポイントを見ていきましょう。
1.襟に高さと広さがある
半袖シャツは、ノータイでかっこよく着こなせるシャツでなければいけません。ワイシャツとは違うカジュアルな要素(たとえばパイロットシャツなど)が無い限り、ネクタイはしない方が良いでしょう。
まず、第一・第二ボタンを外した際に胸元に広がりがあると色気が出るため、襟はレギュラーカラーではなく、ワイドスプレッドやホリゾンタルカラーを選びます。
ちなみに、「ボタンダウンはノータイで着るためのシャツだ。」という人がいますが違います。襟元のボタンは、元々ポロ競技の際にネクタイを固定するために付けたものです。
ボタンダウンシャツの生みの親「ブルックスブラザーズ」は、ボタンダウンシャツをノータイで着ることも想定して、第一・第二ボタンを外した際に襟の立ちが良く、立体的にロールする設計をしています。だから、本来のボタンダウンシャツはノータイにも適しているわけです。
そこが考慮されておらず、単純に襟元にボタンが付いただけのボタンダウンシャツは、襟がペタッと寝てしまうなど残念な着こなしになります。
2.袖幅を絞っている
理想的な男性の体型は、逆三角形です。胸板が厚く、肩幅が広く(いかり肩ではない)、腕周りがたくましいという3つの要素で逆三角形を作ります。
ところが、日本人男性は年をとるとお腹周りに肉が付いて寸胴になる割に、胸から腕にかけての厚さ・筋肉が足りません。そのため、単純にワイシャツを切りっぱなしにした半袖シャツを着ると袖口の幅に余りが目立ちます。
前述した通り、半袖シャツと長袖シャツのシルエットは異なります。長袖シャツはアームホールが適度に絞られ、二の腕に多少の余裕があり、袖口に向かって絞られる形ですが、半袖シャツは二の腕の余裕を持たせる必要はありません。
また、かっこ悪い半袖シャツの多くは、袖が長すぎます。丈で言うと五分丈のイメージです。見た目が華奢な腕は、隠すのではなく”出す”が正解です。そのため、袖は三分丈くらいをイメージするときれいなシルエットになります。
3.ウエストを絞っている
半袖シャツに限らず、シャツのウエストにはある程度ナチュラルな絞りが必要です。
前述した通り日本人の体型は上半身が貧相で、年をとるとお腹周りに肉が付いて寸胴になります。そのため、お腹周りに余裕のある(生地が不自然に余っている)シャツが大半です。
お腹が前に出ることはある程度仕方がないとして、上半身にゆとりを持たせてナチュラルウエストできっちり締めると上半身に大きさを作ることができ、男性的なシャツの着こなしができます。
4.シャツテールが短め
長袖シャツにしろ、半袖シャツにしろ、仕事で着る場合は基本的にタックインのはずです。
そのため、タックインする生地が多いほど、つまりシャツテールが長いほどパンツからはみ出ないと思っている……とすれば実は逆です。シャツテールが長すぎると、パンツからはみ出しやすくなります。
パンツに収めるシャツテールはナチュラルウエストから自然に広がって、パンツに引っかかることで、はみ出しにくい形状です。ところがタックインする生地が多いと、パンツの中で生地がたゆむため、ちょっとした動きでベルトに乗っかるようにパンツからシャツがはみ出てしまいます。
さらに、シャツがはみ出る原因はパンツの履き方にもあります。通常、パンツは腰骨の上にベルトを合わせますが、ジーンズなどカジュアルな服装に慣れた人は、シャツテールが長いことに安心して、より楽に履けるようにパンツを腰に引っ掛け気味に履いてしまいます。
これではせっかくのナチュラルウエストも意味がなくなりますし、ウエスト幅も大きくなるため、隙間ができやすくなります。
イメージは、シャツテールを出してジーンズに合わせても、ちょうど良いと思える長さにすることです。つまり、タックアウトでも違和感が少ないシャツを選ぶこと。シャツをタックアウトできると、シャツのオンオフの使い勝手が格段に良くなります。
5.白無地がベター
最後に、写真には番号を振っていませんが、大切な色と柄に関してです。
色は白、柄は無地が基本です。色や柄で凝りたいという気持ちは良いのですが、それが逃げになってはいけません。白無地の半袖シャツをかっこよく着こなすことができれば、その他の色柄はエッセンスにすぎません。
まずは、襟周りの形、適切な袖幅、ナチュラルウエスト、短めでタックアウトでも着られるシャツテールの要素を満たしてから、色や柄に目を向けるようにしましょう。
クールビズの基本を押さえてうまくアレンジする
クールビズの服装の許容範囲は、企業や業界によって異なるため、最初に押さえた方が良いでしょう。
たとえ、企業規定が本来のスーツの着こなしとかけ離れていたとしても、ここで「伝統のスーツスタイルとは~~」「そもそも日本人にスーツは~~」などのそもそも論で争っても仕方がありません。
基本的にクールビズを掲げる会社は環境省規定に沿うため、最低限「ノージャケット、ノーネクタイ」は許されているはずです。
そのうえで、場面によってはネクタイやジャケットの着用が求められるのか、スラックス以外も許されるのか、そもそも半袖シャツはNGなのかなどに違いがあります。
いざというときに、タイドアップしてジャケットを着込みたいなら、長袖で台襟が付いたリネンシャツだったり、ノータイでボタンを外しても違和感がない長袖ボタンダウンシャツなどを選んでも良いでしょう。
その場合、リネンシャツは素材、ボタンダウンシャツはディテールがカジュアルになる※ため、色柄はやはりシンプルな無地の白やサックスブルーをおすすめします。
※アメリカでは季節問わず、ボタンダウンシャツがビジネスに適さないシャツだという考え方はない。
カジュアルシャツと聞くと、ネルシャツやシャンブレーシャツなどをイメージする人もいますが、本来のワイシャツ(ドレスシャツ)に1つでもカジュアル要素を入れるとカジュアルシャツになります。
問題はどれくらいカジュアル度が強いか、そして場に適したカジュアル度のシャツを使い分けられるかです。
スーツの着こなしとビジネススタイルは違う
ちなみに「スーツ男子」では、以下の内容に何度か触れていますが、これらはあくまでも「スーツの着こなし」に対するマナーの考え方であって、「ビジネススタイル」におけるマナーの考え方ではありません。
「ワイシャツ(ドレスシャツ)は元々下着なので見せるのは失礼。」
「半袖のドレスシャツを着ることはマナー違反。」
「半袖シャツにジャケットを着るのはおかしい。」
「クールビズはスーツを着崩すスタイル」と考えるからおかしいのであって、「クールビズは涼し気なビジネススタイル」と考え、なるべくスーツを着ないように心がけなければいけません。
このあたりの感覚は慣れるまではややこしいと思いますが、すべての服装にTPPOがあるということが理解できれば、納得しやすくなるのではないでしょうか。
もちろん、例に挙げたデッコーロウォモのシャツを買わなければいけないわけではありません。かっこよく着られる半袖シャツのポイントを満たしていれば、どこで買っても問題ありません。悪しからず。