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AOKI・青山・コナカ・はるやまの違いは?
アパレル業界には、商品ラインナップがガラリと変わる時期があります。
いわゆる、「AW(autumn/winter)」と書いてエーダブ(エーダボ)と呼ばれる秋冬、「SS(spring/summer)」と書いてエスエス呼ばれる春夏の時期です。
日本は比較的四季の違いが明確なため、季節毎の販売傾向が顕著で、AW・SS時期に合わせて新聞の折り込み広告が増えたり、テレビCMを見る機会も増えます。
スーツ業界では、年末商戦・新春初売りが終わるとすぐに成人式があり、入学式や入社式などの書き入れ時が訪れるためSSに力をいれています。もちろん、春は心機一転の時期でもあるため、新しくスーツを買い替えて仕事に臨む人が多いことも一因です。
そんな春先は、毎日スーツ量販店のテレビCMが流れるため、スーツに興味がない人でもいつの間にか企業名を覚えてしまいますね。
スーツ量販店は色々ありますが、認知度が高いのは紳士服御三家と呼ばれる「スーツのAOKI」「洋服の青山」「紳士服のコナカ」に「スーツのはるやま」を加えた四大スーツ量販店です。
では、この四大スーツ量販店を展開する企業にはどのような特徴や違いがあるのでしょうか。また、どのスーツ量販店でどのようにスーツを買うとお得なのでしょうか。
スーツ量販店とは
スーツ量販店(紳士服量販店)とは、スーツや礼服だけでなくワイシャツ、ネクタイ、革靴、ベルト、コートなど関連用品を専門に販売する小売店のことで、郊外に大型店舗を構えることが特徴です。
スーツ量販店のスーツは3万円から10万円ほどで、ツープライススーツショップや総合スーパーのPBスーツよりも価格帯が上ですが、「スーツ2着目半額」「パンツ2本付き」などの価格戦略、また形状記憶や洗濯機で丸洗い可能、汗の速乾性が高いなど、機能を重視した機能性スーツによって幅広い年代層に支持されています。
参考|初めてのスーツはどこで買う?スーツ取扱店の種類と値段の目安
また、前述した通りどのスーツ量販店も、新入生・新社会人向けの「フレッシャーズフェア」「新生活応援キャンペーン」に力を入れるため、男女ともに初めてのスーツを購入したり、リクルートスーツのイメージが強いことも特徴です。
現在のスーツ量販店は大手の市場占有率が高く、とくに「AOKI」「青山」「コナカ」「はるやま」が出店攻勢と商品開発において、熾烈な競争を行っているため寡占状態です。※
※住友信託銀行によると、「紳士服専門店は1店舗あたり5万人の商圏人口が必要との考え方もあり、逆算すると国内では2000店程度が限界となる」としているためすでに飽和状態
AOKI|573店舗(2017年3月末時点)
青山|813店舗(2017年3月末時点)
はるやま(グループ店舗)|506店舗(2017年3月末時点)
コナカ(グループ店舗)|475店舗(2017年3月末時点)
四大スーツ量販店の特徴と戦略
スーツ量販店1.スーツのAOKI
参考|スーツのAOKI
スーツのAOKIとは、株式会社AOKIホールディングスが展開するスーツ量販店のことで、青山に次ぐスーツ業界第2位のシェアを誇っています。
AOKIはスーツ販売以外の多角化経営に積極的ですが、カジュアルブランドの展開ではなく、ブライダル事業のアニヴェルセルやカラオケのコート・ダジュール、インターネットカフェの快活CLUB、その他シニア事業など文化や生活に根ざした別業態に進出しています。
出典|日経電子版
スーツブランドの展開
AOKI
ORIHICA(オリヒカ)
カジュアルブランドの展開
なし
その他の展開
アニヴェルセル
コート・ダジュール
快活CLUB
シニア事業
など
スーツ量販店2.洋服の青山
参考|洋服の青山
洋服の青山とは、青山商事株式会社が展開するスーツ量販店のことで、現在のスーツ量販店業態の基本となる郊外大型店舗化を作り上げた業界のパイオニアです。スーツ量販店業界ではシェア1位でもあります。
スーツ販売以外の多角化経営にも積極的で、リーバイスやアメリカンイーグルの日本展開など、カジュアル衣料品や雑貨事業も傘下において拡大を図っています。また、飲食店FCの展開も行っています。
出典|日経電子版
スーツブランドの展開
洋服の青山
THE SUIT COMPANY(ザ・スーツカンパニー)
WHITE THE SUIT COMPANY(ホワイト ザ・スーツカンパニー)
UNIVERSAL LANGUAGE(ユニバーサルランゲージ)
UNIVERSAL LANGUAGE MEASURE’S(ユニバーサルランゲージ メジャーズ)
カジュアルブランドの展開
CALAJA(キャラジャ)
LEVI’S STORE(リーバイスストア)
American Eagle Outfitters(アメリカンイーグルアウトフィッターズ)
その他の展開
MISTER MINIT(ミスターミニット)
焼肉きんぐFC
ゆず庵FC
WTW(ダブルティー)
など
スーツ量販店3.紳士服のコナカ
参考|紳士服のコナカ
紳士服のコナカとは、株式会社コナカが関東を中心に東北から中部地域まで展開するスーツ量販店のことです。そのため、関西方面では知られていませんが、九州中心に展開する紳士服フタタや全国展開するスーツセレクトでカバーしているため、業界第3位の地位を築いています。
コナカの多角化展開は青山やAOKIほど積極的ではありませんが、フィットハウスを傘下に収め、複数種の飲食店FCを展開するなど、堅実な拡大を図っています。
出典|日経電子版
スーツブランドの展開
紳士服コナカ
SUTIS SELECT(スーツセレクト)
KONAKA THE FLAG(コナカ・ザ・フラッグ)
紳士服フタタ
FUTATA THE FLAG(フタタ・ザ・フラッグ)
DIFFERENCE(ディファレンス)
など
カジュアルブランドの展開
なし
その他の展開
FIT HOUSE(フィットハウス)
他飲食店事業
など
スーツ量販店4.スーツのはるやま
参考|スーツのはるやま
スーツのはるやまとは、株式会社はるやまホールディングスが中国地方など西日本を中心に拡大してきたスーツ量販店のことで、近年は関東から東北まで出店を増やしているため全国展開と言って良いでしょう。
はるやまは他事業への多角化展開は行っていませんが、テットオムやトランスコンチネンツ、イーブスなどのカジュアルブランドのブランド力を活かして拡大を図っています。
出典|日経電子版
スーツブランドの展開
紳士服はるやま
P.S.FA(パーフェクトスーツファクトリー)
フォーエル
カジュアルブランドの展開
TRANS CONTINENTS(トランスコンチネンツ)
TETE HOMME(テットオム)
YEVS supply(イーブス サプライ)
モリワンワールド
その他の展開
なし
四大スーツ量販店の売上・利益・利益率の比較
現在の各スーツ量販店の売上と利益はグラフでお見せしましたが、横串の比較も必要だと思います。たとえば2016年度の売上・利益・利益率を比較してみましょう。
青山商事|売上2402億2400万円/純利益118億6900万円(利益率4.9%)
AOKI HD|売上1885億9400万円/純利益97億1100万円(利益率5.1%)
コナカ|売上696億3300万円/純利益-3900万円(利益率-%)
はるやまHD|売上543億8046万円/純利益10億4084万円(利益率1.9%)
参考|紳士服業界 売上高のランキング 1~7位 | 転職ステーション
こうして比較すると”四大”と言う割に、青山とAOKIが売上・利益ともにコナカとはるやまを引き離していることがわかります。
とくにコナカの2016年度決算では利益が出ておらず、同じくスーツ量販店の山形屋(純利益3億1961万9000円)、オンリー(純利益2億7754万5000円)、タカキュー(純利益1569万1000円)に比べても苦戦していることがわかります。
スーツ量販店の満足度
では、私たちが実際にスーツ量販店でスーツを買う場合、「AOKI」「青山」「コナカ」「はるやま」のどこで購入すれば良いのでしょうか。
四大スーツ量販店はサービスや商品など似通っている部分も多く、時期によってメリットも変わるため「ここのスーツをこの時期に買えばお得!」と一概に言い切ることは困難です。
そこで、オリコンが2017年4月に行った「紳士服専門店のランキング・比較」の結果を見て、スーツ量販店各社に対する顧客満足度を客観視してみます。調査対象は、過去3年以内にスーツ量販店で自分用のスーツや礼服を購入した全国18歳以上の男女3839名です。
参考|オリコン 紳士服専門店満足度ランキング|比較・クチコミ・評判 2017年版のデータを独自編集
この調査を見る限り、四大スーツ量販店の中ではコナカが総合1位、意外にも青山の満足度が低いという結果が出ています。ちなみに調査対象(顧客)が重視した項目は以下の通りです。
- 商品の質|22.02%
- コストパフォーマンス|11.69%
- 利用のしやすさ|11.1%
- 商品の豊富さ|10.02%
- 特典・キャンペーン|9.66%
- 店員の接客力|7.97%
- コーディネート力|7.49%
- お直しサービス|7.15%
- 店の雰囲気・清潔さ|5.34%
- 商品の探しやすさ|5.19%
- 試着室の使いやすさ|2.37%
以前お話したツープライススーツショップの満足度ランキングと比較しても、調査対象(顧客)が重視する項目とその割合にはほとんど差がありません。
- 商品の質|24.85%
- コストパフォーマンス|12.57%
- 利用のしやすさ|11.19%
- 商品の豊富さ|9.93%
- 特典・キャンペーン|7.6%
- コーディネート力|6.88%
- 店員の接客力|6.67%
- 店の雰囲気・清潔さ|6.26%
- お直しサービス|6.08%
- 商品の探しやすさ|5.86%
- 試着室の使いやすさ|2.1%
これらを総合して考えると、商品の質や種類、コスパを重視するなら「AOKI」、店舗の雰囲気や使いやすさなどを重視するなら「コナカ」、キャンペーンなどで得をしたいなら「はるやま」、業界1位という安心感が欲しいなら「青山」ということになります(もちろん好みなどもあり、一概には言えませんが……)。
スーツ量販店の今後
1980年代にバブルが終わり、スーツシルエットが大きく変わった1990年前後から、大衆向けスーツの需要は一気に高まりました。また、2000年前後に登場したツープライススーツショップも、スーツ市場拡大の一因になっています。
その流れは、スーツ業界の牽引役であった青山商事の売上推移を見てもわかります。
一方、1990年以降は青山を含めた各社の売上が踊り場にあると言えますが、1人あたりの年間スーツ購入額が25000円から7000円代まで下がっていることから、単純にスーツ購入者が3倍に増えたことで現在の市場規模が保たれていると考えられます。
出典|25年間で「7割減!?」紳士服業界の市場規模、しかし大手4社の業績が堅調である謎? | アパレルコンサルティング/マーケティング【売上向上の仕組み構築】
ただ冒頭でお話した通り、スーツ市場は寡占状態のため、四大スーツ量販店は次の展開を考えなければいけません。それが先に述べた各社スーツ販売以外の多角経営というわけです。
住友信託銀行の調査によると、2000年代に入ってから四大スーツ量販店の売上全体に占める衣料品売上の割合は少しずつ減少しており、今後各社の戦略的特徴がより明確になっていくことが予想されます。
各社の事業多角化に共通するキーワードは、「本業とのシナジー」です。これまでスーツ販売という面で大きな特徴の差がなかった四大スーツ量販店が新しいチャネルを持つことで、本業のスーツ販売にどのような化学反応が起こるかは注目すべき点でしょう。