スーツの上着の正式名称は?
「ほら、夏でもちゃんと上着を着なきゃダメだよ。ビジネスマナーだから。」
新入社員のころに外回りをいっしょにした先輩から、ビジネスマナーについて注意を受けた人もいるでしょう。わたしも、真夏でも上着を着ることがビジネスマナーだと教わりました。
もちろん、普段スーツを着て仕事をしている人なら、この場面で言う「上着」がスーツの上着を指していることはわかりますね。
ところが、このスーツの上着を「ジャケット」と呼ぶ人もいます。また、最近はあまり聞かなくなりましたが、スーツの上着を「背広」という名前で認識している人もいるはずです。学生であれば、同じような形の上着を「ブレザー」と呼びます。
「すべて形が似ているにもかかわらず、呼び方が違う……。混乱する……。」これらはどのように区別すれば良いのでしょうか。
今回は、スーツの上着、背広、ジャケット、ブレザーの違いについてお話したいと思います。
ジャケットとは
結論を言ってしまうと、スーツの上着、背広、ジャケット、ブレザーはすべて「ジャケット(jacket)」の種類の1つです。
ジャケットとは、腰~お尻までの着丈で袖が付いた前開きの上着の総称で、フランス語の「ジャーク(jaque)」が語源だと言われています※。
※スーツの起源は英国のテールコートだが、ジャケットはフランスの農夫が着ていた短い上衣が始まり。
日本ではジャケットと聞くと、一般的にセパレートスタイル(ジャケパン)で着用するシングルまたはダブルのジャケットをイメージしますが、それ以外にもダウンジャケットやトラックジャケット、ライダースジャケットなど、多くの上着に「ジャケット」という名前が付いています。
実際に、「jacket」で画像検索すると、上記の様々なジャケット画像が表示されます。そんなジャケットを簡単に分類すると、以下の図のようになります。
では、この図の中にある「テーラードジャケット」や「スポーツジャケット」がどのようなジャケットのことを言うのか、それぞれ見ていきましょう。
テーラードジャケットとは
テーラードジャケット(tailored jacket)とは、折襟(テーラードカラー)が施された上着のこと、または1枚の共布で作られたテーラードカラーの上着とベスト(ジレ)、パンツ(トラウザーズ)からなる一揃いの衣服を言います。
つまり、テーラードジャケットはジャケット(上着)単体でもあり、スーツでもあるということになります。このテーラードジャケットという名前が省略されて、スーツの上着はジャケットと呼ばれます。
そのため、ビジネススーツで外回りをする部下にマナーを促す際は、「夏でもちゃんと”ジャケット”を着なきゃダメだよ。」と言い換えられます。
ちなみに、テーラー(tailor)は紳士服の仕立て屋という意味です。そのため、本来はテーラーによってきっちり仕立てられたジャケットをテーラードジャケットと言いますが、現在は言葉の意味がそれほど重視されなくなりました。
このテーラードジャケットに分類されるのが、スーツの上着や背広、またはジャケパンのジャケット、ブレザーです。
背広(せびろ)とは
背広とは、主に男性用のスーツの上着(ジャケット)のことですが、ツーピーススーツ、スリーピーススーツを「背広」と表現する日本語名です。つまり、背広とスーツの上着とテーラードジャケットは同じものを指します。
参考|デキる男の服装とは?スーツを着こなすため必要な内面の要素
スポーツジャケットとは
スポーツジャケット(sports jacket)とは、もともとはジャケパンスタイルに用いるシングルブレストのジャケットのことです。
私たち日本人がスポーツジャケットと聞くと、「運動をするためのジャケットだから……トラックジャケット……?」と思いがちですが、この場合の「sports」には「普段着向きの」という意味があります。
そのため、ジャケパンスタイルは本来「スポーツスタイル(またはセパレートスタイル)」と呼ばれます。
また、普段着であるカントリースタイルのジャケットとしてメジャーなリーファージャケット、サファリジャケット、ハンティングジャケットなどもスポーツジャケットに含まれます。
ここでもう一度先程の図を見てみると、「スーツではないシングルジャケット」と「ブレザー」はスポーツジャケットであり、テーラードジャケットでもあるわけです。
そのため、ジャケパンに使うスポーツジャケットやブレザーは、スーツから派生した別物だということになります。
スーツの形や色や生地が少しずつカジュアル化していく中で、スポーツジャケットやブレザーとしての地位を確立していきました。
ブレザーとは
ブレザー(blazer)とは、金属製のシャンクボタン(メタルボタン)、胸ポケット上にエンブレム、主にフランネルやニット生地を使ったシングルブレスト、またはダブルブレストのテーラードジャケットを言います。
ブレザーの由来は、ケンブリッジのセントジョンズカレッジのレガッタボートクラブの選手達が着ていた赤いシングルジャケットです。燃える(Blaze)ような赤いジャケットが転じてブレザーになったという説があります。
ちなみに、ブレザーの由来としてイギリス海軍の軍艦ブレザー号の乗組員がメタルボタンのネイビージャケットを揃いで着ていたという説もありますが、ダンヒル(dunhill)によると、それは間違いだとのこと。
参考|Blazer(ブレザー)を考える。HEADQUATER
現在はメタルボタンや胸ポケット上のエンブレムがないテーラードジャケットもブレザーと呼ぶブランドがあるなど、区別が曖昧な部分もありますが、基本はメタルボタンがついたテーラードジャケットであり、スポーツジャケットのことです。
ジャケットの種類のまとめ
というわけで、スーツの上着や背広、(スポーツ)ジャケット、ブレザーは形が似ていますが、それぞれ特徴があって分類されるものになります。もう一度簡単にまとめておきましょう。
- ジャケット
- 袖のついた前開きの上着全般のこと
- テーラードジャケット
- 折襟が施されたジャケット、またはスーツの総称
- スポーツジャケット
- 主にスーツではないシングルジャケットの総称
- 背広
- テーラードジャケット、またはスーツの上着
- ブレザー
- フランネル・ニット素材でメタルボタンとエンブレムが付いた上着
- スーツ
- 共布で作られたジャケット、パンツ、ベストのセット
わたしは普段からスーツの上着は「ジャケット」と呼びますし、スポーツジャケットも「ジャケット」と呼びます。ただし、場合によって「スーツの上着」「カジュアルジャケット」と言い分けますし、仕事柄スーツの上着を背広と呼ぶこともあります。
頭の中で慣れるまでは、これらの違いはややこしく感じるかもしれません……。
英語ではスーツの上着を区別する際に以下のように表現することが多いため、明確に区別したい場合は「夏でもちゃんと”スーツジャケット”を着なきゃダメだよ。」などと言えば良いのでしょう。
- Formal Suit Jacket
- Business Suit Jacket
- Casual Suit Jacket
スーツの上着をジャケパンに使ってみると…
さて、スーツの上着とスポーツジャケットには、名前による分類があることがわかりました。
前述した通り、スポーツジャケットはスーツの形や色や生地がカジュアル化していく中でその地位を確立した服ですが、全体の形自体に大きな違いがあるわけではありません。
では、手持ちのスーツジャケットに別のパンツ(スラックス)を合わせて、カジュアルなジャケパンスタイルを作っても良いのでしょうか。
おそらく誰もが一度は挑戦してみるものの、どことなく違和感を感じたことがあるはずです。
実はスーツの上着とスポーツジャケットは細かなディテールの違いがあるため、スーツの上着をジャケパンスタイルに用いると違和感のある着こなしになりがちなんです。
では、違和感のある着こなしとはどういうことなのか、具体的にどう違いがあるのかは以下でお話したいと思います。
参考|スーツの上着はジャケパンに使える?ジャケットに必要な条件