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戦後日本に根付いたファッションスタイルとは
みなさんは、「アイビールック(IVY LOOK)」と聞いてどのようなファッションスタイルをイメージするでしょうか(アイビーファッション、アイビースタイルとも言う)。
スーツスタイルにおけるカジュアル感を出すため、またはジャケットスタイルにバリエーションを持たせるためには、「アイビールック(アイビースタイル)」の存在を外すことはできません。
いわく、「アメリカントラディショナルの代表格」「プレッピースタイルの源泉」「英国のインフォーマルスタイル」など様々な異名はありますが、1950年代にアメリカで生まれたアイビーが現在もファッションスタイルとして日本に根付いているのは、日本においても独自の一時代が築かれたためでしょう。
アイビールックは、人によってそのスタイルの解釈が違う場合があります。というのも、アイビールックは時代とともにスタイルが変わり、トレンドから文化として定着していったからです。
中国から入ったラーメンやインドから入ったカレーが日本独自の進化を遂げ、時代によってその立ち位置が変わり、文化として根付いたようなイメージでしょうか……(個人的な見解ですが)。
今回は、アイビールックがどのような歴史を持ち、どのように日本人に受け入れられていったのかをお話したいと思います。
アイビールックとは
アイビールックとは、現在では「上品でスタイリッシュなアメリカントラディショナルスタイル」と位置付けられるファッションスタイルのことで、象徴的なアイテムとして紺の3つボタンジャケット(ドロップショルダー)、ボタンダウンシャツ、コットンパンツ、バミューダパンツ、ローファーなどが挙げられます。
アイビールックの定義は幅広く、ジャケット中心の上品でナチュラルなトラッドファッションやトラッドからカジュアルダウンして着崩したスタイルまでを言い、さらに後に派生したプレッピースタイルまでが含まれる場合があります。
アイビールックの由来
元々アイビーは、アメリカ東海岸にある8つの名門私立大学(ブラウン大学、コロンビア大学、コーネル大学、ダートマス大学、ハーバード大学、ペンシルベニア大学、プリンストン大学、イェール大学)からなるスポーツリーグ「アイビーリーグ」に由来しています。
アイビー(IVY)の由来は、大学スポーツリーグの各校代表を表す「INTER-VARSITY(実際はVARSITY)」からIVYと呼ばれるようになった説、8つの大学の校舎に植物のツタ「IVY」が茂っていたことからIVYと呼ばれるようになった説の2つがあります。
どちらにしても、名門大学で名家のお金持ち学生が好んで着ていた上品なトラディショナルスタイルが源流であり、1955年に国際衣服デザイナー協会(IACD)※が名付けたことがアイビールックの定義の始まりです。
※現:International Association of apparel Designers and Executives(IACDE)
1910年にニューヨークにてIACDEとして設立後、1919年4月16日にIACDに名称変更され、その後アパレル業界の細分化などに伴い、再度IACDEとなったとのこと。
日本におけるアイビールック
当時の日本において、アイビールックというアメリカの先進的なファッションは戦後復興の象徴の1つとして捉えられ、このトレンドの中心にいたのがヴァンヂャケットの創業者で、”メンズファッションの神様”と呼ばれる石津謙介氏でした。
西洋文化の影響を受けた石津謙介氏は、中国から帰国後に石津商店(1951年創業)を始め、後に日本初のファッションブランド「VAN JACKET(ヴァンヂャケット)」を作ります。
アイビールックはヴァンヂャケットとともに日本の若者にも徐々に広まっていき、1960年代前半から着崩したアイビールックで銀座みゆき通りにたむろする「みゆき族」と呼ばれるストリートカルチャーが一世風靡するまでに至ります。
つまり、元々アメリカのエリート学生が着こなしていた上品なアイビールックが日本で定着するにあたって、日本独自の着崩した改変アイビーが生まれるという、まさに日本のメンズファッションの先駆けとなったわけです。
改変アイビー自体は1960年代以前から、日本のファッション業界で話題になっていました。もちろん、着崩したアイビールックは同時期にアメリカでも流行っていましたが、着崩し自体は真似ではなく同時発生的に起こったものだと考えられます。
参考|1950年代日本ではIVY|アイビールックはどう理解されていたか
アイビールックのアイテム
ここまでアイビールックの説明をしましたが、アイビールックの定義が難しければ、まずは「アイビールック=アメリカントラディショナル」と考えて良いでしょう。つまり、アメトラの着こなしを作れば、アイビーに近づくということです。
ところが、前述した通りアイビールックは時代とともに(極端な細身やナチュラルな着こなしなど)スタイルが変化してきた背景があるため、人によって解釈が異なります。
そこでアイビールックを着こなすために、アイビーを象徴するジャケット、シャツ、パンツ、靴の定番アイテムを取り入れてみてください。
アイビーアイテム1.紺の3つボタンジャケット
アイビーと言えば紺ブレ(紺のブレザー)というぐらいの定番アイテムですが、とくにジェイプレス(J.PRESS)やブルックスブラザーズ(Brooks Brothers)のネイビージャケット、メタルボタンが付いたブレザーは今も愛され続けているアイテムですね。
伝統的なアメトラ感を出したい場合はナチュラルなI型ジャケットを選び、1960年代のナードっぽさを出したいなら細身で丈が短いトム・ブラウン(Thom Browne)のスタイルを真似ると良いでしょう。
もちろんボタンは段返り3つボタンで、中1つ掛けが基本です。アイビーとモッズを混同して全てのボタンを留めないようにしましょう。
アイビーアイテム2.ボタンダウンシャツ、ポロシャツ
1900年、ブルックスブラザーズが生んだBDシャツ(ボタンダウンシャツ)もアイビールックの定番アイテムです。ボタンダウンシャツは、襟先にあるボタンによって襟が固定できるシャツのことです。
また、ポロシャツは夏場のアイビールックを作るために必要なアイテムです。BDシャツもポロシャツもどちらもシャツでありながら、ノータイスタイル(伊語でSenza Cravatta)の装いがカジュアルでスポーティに仕上がります。
ちなみに、カジュアルシャツとして作られたBDシャツですが、現代ではビジネスシーンでの着用もよく見られるようになりました。
アイビーアイテム3.コットンポプリンパンツ、バミューダパンツ
コットンポプリンパンツとは、綿素材で平織りされた薄手のパンツのことです。色はベージュから茶系が好まれ、遊びにマドラスチェックなどを合わせる着こなしもありました。
また、夏場は膝上丈のバミューダパンツに薄水色のシアサッカーのジャケットを合わせると、学生っぽい爽やかなアイビールックを作れます。
ちなみに、コットンパンツの一種であるチノパンは、厳密に言うとアイビーよりもプレッピーでよく使われたアイテムです。
アイビーアイテム4.ローファー
アイビールックには通常のドレスシューズやロングノーズではなく、素足を見せたローファーを合わせます。
とくに当時はジーエイチバス(G.H.Bass)やリーガル(REGAL)のコインローファー(ペニーローファー:本当に1ペニー挟んでいたらしい)が好まれましたが、夏場にカジュアルダウンしたい場合はデッキシューズを合わせるなどカジュアルな工夫でもマッチします。
素足に靴を合わせたくない人は、インビジブルソックスが必須です。ソックスは靴の色に合わせることで肌色が自然な抜け感を作ります。
スーツでアイビールックを作る方法
さて、アイビールックを知ると、トラディショナルなスーツスタイルからある程度上品さを保ちつつ着崩したカジュアルスタイルだと理解できると思います。
では、通常のスーツスタイルをあまりカジュアルダウンせずにアイビーを意識したい場合は、どうコーディネートすれば良いのでしょうか。
方法1.ジャケットはアイビー定番を細身で
まず、トップスはネイビーソリッドでシンプルなスーツを選びます。ジャケット単体でも使えるように肩パッドを入れないドロップショルダーが基本ですが、スーツはあくまでもシティスタイルのビジネス使いが中心だということをお忘れなく。
参考|スーツの上着はジャケパンに使える?ジャケットに必要な条件
方法2.パンツの裾はくるぶし丈
いわゆるアンクルパンツを選びますが、ストレートシルエットを選ぶと足が短く見えるため、全体が細めでさらに裾に向かってテーパードなシルエットが良いでしょう。
もちろん、ビジネスの場では素足が見えないようにソックスを履き、ソックスの色は靴orパンツに合わせることが基本です。先細りのテーパードに同色ソックスを合わせると、足がスラッと長く見えます。さらに、靴の色も合わせると効果が高まります。
方法3.足元は職場に合わせて
足元はコインローファーがベストですが、カジュアル過ぎると言われる職場もありますね。その場合は、Uチップを合わせてカジュアルとビジネスで使い分けると良いでしょう。
アイビーとドレスシューズの相性が良くないからと言って、カジュアル感を意識すぎるあまり、ゴテゴテした装飾がつくと足元が重くなってしまいます。足元は軽やかで上品さを意識するとアイビールックが締まります。
アイビーとプレッピーの違い
よく「アイビーとプレッピーの違い」が議題に挙がりますが、簡単に言うとアイビーの方がトラディショナルでシンプルで上品、プレッピーの方がモダンでカラフルで先鋭的などの違いがあります。
ただし、どちらのスタイルも境目が明確ではありません。
個人的には「◯◯じゃなきゃ、◯◯とは言えない!」というスタンスではないので、自分なりのアイビーに寄せたスタイルの軸を決めて、アレンジを加えていくのがおしゃれの楽しみ方の1つだと思います。
「ファッションのトレンドサイクルは20年単位で繰り返す」と言いますが、20年毎にトレンドがピッタリトレースされることはありません。
とくに昨今は、わたしと同じように「◯◯じゃなきゃ、◯◯とは言えない!」という感覚の人は減り、おしゃれがフレキシブルになっていると思います。よほどオフィシャルな場でない限り、良くも悪くも他人を意識することなく独自のおしゃれを楽しんでも良い時代です。
まずは基本を知り、基本に忠実に着こなすか、程良くカジュアルダウンなどのアレンジを加えるか……それを考えるだけでも千差万別で、オンオフどちらのアイビーも楽しめるようになると思います。